税務調査に当たっては納税者と税務署の間で様々なやり取りがされますが、税務署の対応のまずさがあった場合、それを理由として課税処分が取り消されることはあるのでしょうか。今回は、税務署が説明責任を果たしていないなどの理由で処分が取り消されるべきかが争われた事例(平成25年12月9日裁決)を紹介します。
過去の経緯などから調査が難航
歯科医師のAさんは税務調査の事前通知を受けた際、過去に税務署からなかなか還付金が返還されなかったなど対応に誤りがあったことなどを理由に、謝罪がなければ調査に協力できないと回答しました。実際に歯科医院を訪れた調査担当職員に対しても、過去の税務調査で500万円を納税するように言われた際に根拠を示すようにと言うと具体的な説明なく20万円まで減額されたという理不尽な対応があったとして、税務署に対して不信の念を抱いているとAさんは説明。それに対して職員は、今回の税務調査においては誤りを指摘する際には根拠を明示することなどを説明して協力を求め、帳簿書類を借用して税務調査を進めました。そして、是正すべきと思われる事項などに関して調査担当職員が質問を始めたところ、Aさんが立腹して資料を破棄したため調査を中断。その後、取引先に対する反面調査などに基づく結果をAさんに説明しようとしたのですが調整がつかず、結局、調査結果を更正通知書で通知することとなりました。しかしAさんはそれに納得せず、国税不服審判所で争うこととしました。
Aさんは、職員は帳簿書類を検討するのみで十分な質問を行っておらず、また調査の結果についての説明も不十分であり説明責任を果たしていないと主張。さらに過去の対応誤りについての謝罪を求めたが、税務署が誠実に対応することがなかったことから、そのうえでなされた更正処分は取り消されるべきとしました。
調査手続きの違法は高いハードル
税務署は、Aさんに対して書類の交付や調査内容等の説明を行ったもののAさんが立腹し書類を破り捨てたため、資料送付により対応したものと説明。過去の税務調査の対応については、その内容が定かではないし、過去の対応は今回の処分と何ら関係するものではないとしました。
審判所は、調査手続きの違法は、それが刑罰法令に触れたり公序良俗に反する程度に至ったりするなど、およそ調査を行ったとはいえないと評価されるほど違法性の程度が著しい場合を除いては、課税処分の取り消し事由にはならないものとし、Aさんについては違法性の程度は著しいといえるような事実は見当たらないと判断。処分を取り消さなければならないような違法があったと認めることはできないとしました。
さらに職員が調査内容等の説明および質問調査を実施しようとしたにもかかわらず、Aさんが謝罪を調査継続の条件とするなどしたため調査を中断せざるを得なかったことから、十分な質問ができなかったとしても調査が違法であるということはできないとしました。また仮に過去の対応誤りの事実があったとしても、その事実が今回の調査に影響を及ぼすものとは認められないとして、Aさんの主張を退けました。
【教訓】
経緯をみるとAさんはかなり強烈な対応をしていますが、調査内容以外の論点で争ったとしても「違法性」がない限りは通用しないようです。理由を付けてごねたがる社長さんを説得する際に役立つ事例かもしれませんね。