保険金は保険の対象となる事故(保険事故)が発生してから支払われます。保険事故が発生しているということは、一般的に損失が生じているわけで、その損失は会社の損金に算入します。この損金の計上時期については、保険金を受け取って益金に計上した事業年度に合わせるのが基本ですが、実務で判断に迷うのが損失額が正確に確定していないケースです。
今回は具体的な支払い額が確定していない遺族補償を損金に算入して良いか否かが争われた事例(平成20年5月30日裁決)を紹介します。
保険金と損失額の計上タイミング
産業廃棄物の運搬などを行うA社の従業員Bさんは、業務中の交通事故によって死去しました。A社は保険契約者を自社、被保険者を役員や従業員全員、死亡保険金受取人を自社とする傷害保険契約締結していたので、保険金がA社名義の口座に振り込まれました。
A社はこの交通事故に関して、Bさんの遺族から「車の修繕点検を怠っていたから発生した。その分の賠償が必要」として提訴を受けます。保険金の一部を賠償に充てる可能性もあったため、A社は保険金を益金に含めず、「仮受金」として計上して法人税の申告をしました。しかし、税務署は保険金は益金の額に算入すべきであると判断。更正処分を行いました。
これに対してA社は、保険金を益金の額に算入することは認めたものの、保険契約の時点で受取保険金の50%以上の金額を遺族補償金として遺族に支払う旨の合意書があったため、その遺族補償金に限っては損金の額に算入できるはずとしました。保険金(益金)と、遺族補償金(損金)を同じ年度に計上しようとしたわけです。
「50%以上」だと額が未確定なのか
税務署はこれを認めず争いとなりました。争点となったのは「50%以上」という表現です。税務署の主張は、「具体的な金額が示されているわけではないので、損金として確定したものではない」というものでした。これに対しA社は、「50%以上を支払うと定められているということはすなわち、最低でも50%の額を支払うことは確定している」と真っ向から反論しました。
国税不服審判所はA社に軍配を上げました。その判断は債務の確定についての通達(2-2-12)をベースとしています。通達では債務が確定する要件として、事業年度の終了する日までに、①その費用にかかる債務が成立していること、②その債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること、③その金額を合理的に算定できること―の3要件を定めています。①については同意書によって死亡保険金額の50%以上の金額を遺族補償として支払う旨を保証しているので債務が成立しており、②については保険死亡事故の発生によって遺族に具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していると認められ、③については死亡保険金の50%相当額というのは具体的に算定可能であるという判断から、保険金の50%相当額はその事業年度の損金の額に算入すべきであると結論づけました。
【教訓】
この遺族補償金のように、その事業年度に計上するかどうか迷うものに関しては、通達の基準に該当するか否かについて事実関係に基づき丁寧に考えていく必要があります。税務署に認めさせるには証拠となる資料が必要なので、今回の裁決の根拠となった同意書のような書類を準備しておく必要がありそうです。