納税を滞納すると資産を差し押さえられることがあります。差し押さえられる資産は一つとは限りませんが、それでは差し押さえた資産の価値が滞納税額を超えているにも関わらず、追加で他の資産を差し押さえるのは許されるのでしょうか。今回は、追加の差押が不当かが争われた事例(平成29年10月16日裁決)を紹介します。

2回に分けて資産を差し押さえ

Aさんは相続税の申告に当たり、所有する土地および居宅を担保として、20回の年賦納付とする延納を申請しました。税務署長はこれを許可し、土地及び居宅に抵当権設定登記を行いました。その後Aさんは、その建物の上に物置を築造しました。

結局、延納し税額が納期限までに完納されず、Aさんに督促状を送るなどしたのですが納付されなかったため、税務署長はAさんの土地および居宅について担保物処分のための差し押さえをしました。その後、さらに追加で物置の差し押さえをしたところ、Aさんは物置の差押処分を不服とし、国税不服審判所で争うこととしました。

国税通則法では、税務署長が担保の提供がされている国税についての延納を取り消したときは担保として提供された金銭以外の財産を処分して国税及び当該財産の処分費に充て、それでもなお不足があると認める時は担保を提供した者の他の財産についても滞納処分を執行できる旨を規定しています。つまり担保価値が滞納分に足りない時には、追加で差押ができるわけです。

審判所は法律上の文言を優先

Aさんは、固定資産税価額による土地及び居宅の価額は滞納国税額を明らかに超えており、その代金を充てれば徴収代金は生じないと主張。物置に対する差押処分は通則法に規定する「なお不足があると認めるとき」ではなく、取り消されるべきだとしました。

税務署は、土地及び居宅の処分見込額が滞納国税額を上回っており、差押処分が「なお不足があると認めるとき」になされたものではないことは認めました。そのうえで、土地及び居宅の公売にあたっては物置が敷地利用権のない状態で残存し、買受人がその処分について煩雑な手続を強いられることになることから、買受希望者が現れがたく売却価額が本件処分見込額よりも低額になることが十分に予想されると反論。こういった事態を招く恐れのある物置の築造は、滞納処分の執行を妨害するものと評価し得るものであるとして、この差押処分は許容されるべきと主張しました。

両者の言い分に対して、審判所は「なお不足があると認めるとき」という文言を重視しました。税務署が計算した処分見込額に不合理な点は認められないとしたうえでこの処分見込額は滞納国税額を上回ることは明らかであり、この差押処分は「なお不足があると認めるとき」になされたものとは認められないと結論付けました。物置の築造は滞納処分の執行を妨害するとの税務署の主張についても、主張には一理あるとしたものの、その場合であっても公売するための差し押さえは担保権の実行である以上、国税通則法に基づくべきとして退けました。

【教訓】

税務署の「余計なものが乗っていると価値が下がる」「執行の妨害だ」という主張はよくわかります。しかし税金に関しては「税法」の文言がまず優先されます。どうしてもその他の事情にまどわされてしまいがちですが、税法本来の視点からはとてもしっくりくる結論です。