一棟のビルを建てたオーナーが、その建物に自身も居住するケースは珍しくありません。その場合、オーナーが居住している部分に住宅借入金等特別控除は適用されるのでしょうか。今回は、当初一棟の建物として登記し、その後に区分しなおした建物について住宅借入金等特別控除が適用されるかが争われた事例(平成14年10月25日裁決)を紹介します。

7階中2階だけ自分の居住用

Aさんは7階建てで総床面積600平方メートルほどの建物を新築し、その6階と7階(合計床面積135平方メートルほど)に住んでいました。その年と翌年の確定申告の際、その居住用部分について住宅借入金等特別控除を適用して申告しました。

租税特別措置法施行令では、借入金等特別控除の対象となる家屋は、「床面積の2分の1以上に相当する部分が専ら当該居住の用に供されるものに限る」と定めています。税務署はこの規定を基に、Aさんの居住用部分は総床面積の2分の1未満であるため特別控除は適用できないとして、所得税の更正処分および過少申告加算税の賦課決定処分を行いました。しかし、これを不服としたAさんは国税不服審判所で争うこととしました。

この建物は当初一棟の建物として登記されていました。その後、居住用部分を居宅、それ以外を店舗・共同住宅とする区分登記をし直したのですが、確定申告時には、一棟の建物として登記した当初の登記簿謄本が添付されていました。

Aさんは、この建物は構造上区分された数個の部分を独立して住居、その他の用途に供することができるものであるから、居住用部分である6階と7階の2分の1以上が居住用であるかを判断すべきであると主張。また新築当初から区分登記するよう土地家屋調査士に依頼していたが、土地家屋調査士が誤って一棟の建物表示登記したものであり、その後、登記は更正されて区分登記が完了しているとして、この処分は不当だと訴えました。

当初登記の内容が税務処理の決め手に

税務署は、登記申請誤りがあったとしても、変更後の区分登記の効力は当初登記の時点に遡らず、当初登記が有効だと反論。Aさんが申告書に当初登記に関する登記簿謄本を添付していたことなどと合わせても、家屋の床面積の2分の1以上に相当する部分が専ら当該居住の用に供されるものに限るとの要件を満たしていないと反論しました。

審判所は、一棟の建物につき区分所有が成立するためには、建物の各部分が独立の構造を有し、構造上区分された各部分が独立して住居、店舗などの用に供することができるだけでは足りず、各部分を別個の建物とする意思が客観的に外部から認識され得るものとして登記をしていることから、この建物の居住用部分につき区分所有が成立していると解することはできないとして、Aさんの主張を退け、住宅借入金等特別控除の適応はできないと結論付けました。

【教訓】

この事例では、区分所有の成立要件がしっかり論じられています。不動産に関する法律は多岐にわたり、税法の解釈に影響を及ぼすことも多いですから、こういう事例から少しずつでも学んでいきたいところです。