個人事業では、支出した費用が事業所得の必要経費となるか家事上の経費とされ必要経費不算入となるかの判断が分かれることが多い部分ですが、判断の決め手はどこでしょうか。今回は、同業者とプレーしたゴルフ代が必要経費となるかが争われた事例(令和2年10月14日裁決)を紹介します。

具体的な内容については回答なし

税理士業を営むAさんは、所得税の確定申告の際にゴルフ代を接待交際費として事業所得の金額の計算上必要経費に算入していました。この確定申告に対して税務調査では、ゴルフ代については支出の事実は認められるものの具体的な支出内容が不明であることから家事費に該当するのではないかとして、調査官はAさんに質問書を交付しました。それに対してAさんは「総勘定元帳記載の通り」とだけ記載した回答書を提出し、その後の質問に対しても具体的な回答をしなかったため、税務署はこのゴルフ代は家事費に該当し、事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができないと判断し、所得税の更正処分と過少申告加算税の賦課決定処分を行いました。しかしAさんは、その処分の取消しを求めて国税不服審判所で争うこととしました。

所得税法上、納税者がした支出のうち、必要経費に該当するか家事費に該当するかの判断が難しいものは「家事関連費」とされ、取引の記録等に基づいて「事業所得を生ずべき業務の遂行上直接必要であった」ことが明らかにされる部分に限り、必要経費に算入することとされています。この事例では、その点を明らかにできるかが判断の分かれ目になりました。

事業に必要な部分が区分されず

税務署は、Aさんが質問書に対して具体的な回答をしなかったことから、Aさんはこれらの費用と税理士業との関連性を合理的に推認させるに足りる具体的な立証を行っていないと主張。業務の遂行上直接必要であったことが明らかでないとして、このゴルフ代は事業所得の必要経費に算入することができないとしました。

これに対しAさんは、ゴルフ代は顧客の開拓、取引先の接待、同業者の懇親や情報収集などを企図したものであり、その青手先や目的は総勘定元帳および証票類に記載されていると反論しました。

双方の主張について検討を行った審判所は、Aさんが同業者などとゴルフをすることで事業について何らかの有益な影響があり得るとしても、それはゴルフをしなければその目的を達することができない性質のものではないとして、ゴルフ代は家事上の経費であるとしました。さらに事業所得の計算に当たっては事業の必要経費と家事費とを明確にん区分する必要があるとしたうえで、仮にゴルフ代の一部が家事関連費に該当するとしても、事業による所得の獲得活動のみならず、私的な消費活動の側面もあることから、家事費部分と事業の遂行上必要な部分を区別しているとは認められないとして、Aさんも主張を退けました。

【教訓】

ぱっと見、ゴルフ代は必要経費に一切ならないようにも見える厳しい判断ですが、その検討の中では家事関連費である可能性も示され、業務の遂行上必要な部分を区別できていれば必要経費と認められる余地は十分にあったといえます。家事費かもしれないと疑われそうなものに関しては総勘定元帳にしっかり内容を記載することで、リスクを避けたいところです。