税法に限らず、法律は毎年のように変わっていきます。では新たな法律が制定されたとして、それに対応する税法の改正がなかった時、元からある税法が新しい税法をも対象としているといえるのでしょうか。今回は、借地借家法の制定により新たに定められた事業用借地権が、それ以前からあった法人税法の射程内にあるかどうかが争われた事例(平成14年9月17日裁決)を紹介します。
改定前の法律の対象外と主張
遊技場を営むA社は、20年の賃貸借契約を締結して土地を借り受けました。この契約は、「借地借家法」に規定する事業用定期借地としてパチンコ遊技場の建物の所有を目的とするもので、存続期間の延長は一切認めず、契約終了時には建物を撤去して原状に復して返還しなければならないとするものでした。この契約にあたりA社は、理由のいかんを問わず返還されないとされる「一時金」と、貸借契約時の土地の明渡し後に返還される「保証金」を支払いました。
A社は、この一時金および補償金を創立開業費として資産に計上した後、その全額を償却し損金の額に算入していましたが、その後の税務調査の際に、保証金については損金算入は誤りだったとして修正申告書を提出しました。しかし税務署は一時金についても誤りだったと指摘。法人税の更正処分等を行いましたが、A社は納得せず国税不服審判所で争うこととしました。
A社は「借地借家法」は70年ぶりに改正されたものであり、同法が規定する事業借地権は改正前の借地法上の借地権とは明らかに異なり、現行の法人税法にはない新たな課税客体であると主張。歴史的、時系列的にみても法人税法は借地借家法に規定する事業用借地権を包含していないことは明らかだとして、現行の法人税法を根拠とした更正処分は違法無効で、償却費として損金の額に算入したA社の処理は認められるべきとしました。
あくまで「借地権」の一種と判断
税務署は、この事業用借地権は更新請求や建物買取請求権等を認めない旨の特約が付されたものであるとはいえ、あくまで借地借家法に規定する借地権に該当すると反論。借地権は固定資産のうちの土地(土地の上に存する権利を含む)に該当すると法人税法で定められていることから、事業用借地権も同様に土地であり、A社が支払った一時金は償却費として損金にはできないとしました。
審判所は、この事業用借地権は、専ら事業の用に供する建物(居住の用に供するものを除く)の所有を目的とし、かつ存続期間を10年以上20年以下とする借地権をいうものとされることから、一部適用されない規定があるとはいえ借地権であることには変わりがないと判断。また法人税法上の「土地の上に存する権利」から除外する規定も特に存しないことを考え合わせると、事業用借地権は法人税法上の「土地の上に存する権利」に含まれ、返還されない一時金は借地権の取得価額に算入すべきであり、損金の額に算入できないとしてA社の主張を退けました。
【教訓】
この事例では、事業用借地権を以前からある法人税法における規定に当てはめています。もしまったく当てはめる部分がなければA社の主張が認められる余地もあるような気がしますが、そういった場合には法人税法の改定もされるはずです。時系列の問題で法の適用外となることは考えづらいのかもしれません。