個人事業主の本業から得た所得は、確定申告の際には「事業所得」として申告します。そして、その事業に付随して発生する所得もまた事業所所得とすると定めた通達が存在します。しかし事業に付随するとはいえ、例えば役務を提供していないのに受け取ったような金額も事業所得とされるのでしょうか。今回は、弁護士会から受け取った援助金が事業所得か一時所得かが争われた事例(平成18年9月1日裁決)を紹介します。

対価性がないため一時所得と主張

弁護士であるAさんは、弁護士会から国選弁護士としての推薦を受け、刑事被告人の弁護士に選任されました。弁護を進めるなかでAさんは、弁護士会にこの弁護活動に係る援助の申請をしました。申請書には援助を必要とする理由として「当該事件の準備、公判出席等の為ほかの事件を充分に行えない」とおり、弁護士会は審査ののち援助金を支払いました。

Aさんは確定申告の際にこの援助金を事業所としましたが、その後、この援助金には対価性がないため一時所得だったとする更正の請求を行いました。しかし税務署がこれを認めなかったため、Aさんは国税不服審判所で争うこととしました。この争いでは、所得税法において一時所得について定めた「労務その他の役務の対価としての性質を有しないもの」という要点が争点となりました。

税務署は、所得税法に規定している「役務の対価」とは、具体的、特定的な役務行為に対応・等価の関係にある場合に限られるものではなく、抽象的・一般的な役務行為に関連してなされる場合をも含むと主張。この援助金の給付は弁護士としての地位および国選弁護という役務行為に関連してなされており、一時所得に該当するという主張には理由がないとしました。

あくまでも役務の提供に該当

これに対してAさんは、この援助金が弁護士会から国選弁護人に支出する援助金であることに着目。国選弁護人と弁護士会との間には役務行為が存在しないことから「役務の対価」ではないとしたうえで、「役務の対価」には何らかの有償性がある場合に限定されるべきであり、本件のような純粋な無償行為にまで拡大することは許されないとしました。

そして税務署の判断は対価の概念を不当に広く歪めるもので許されないと反論しました。

審判所は、この援助金が国選弁護人としての活動という弁護士本来の事業活動を行うことによって支払いを受けたことなどからすると、この援助金は少なくとも弁護士活動に付随して生じた収入ということができると判断。「事業から生ずる所得」に当たり、事業所得に含まれるのが相当であるとしました。

Aさんの主張に対しては、弁護士会は弁護活動を行った弁護士に対して援助金を支払うこととしており、何らかの役務行為をしない者に対して援助金を支払うことはあり得ないとしたうえで、この援助金は弁護活動に対する「役務の対価」に該当すると判断。Aさんの「事業から生ずる所得」に該当することは明らかであるとし、税務署の処分は適法であるとしました。

【教訓】

「役務の提供」というものを狭くとらえるか広くとらえるかは難しいところなのですが、この事例に関しては審判所のいう「何らかの役務行為をしない者に対して援助金を支払うことはあり得ない」という点はもっともと感じます。しっかりと事実関係を確認したうえでの判断が必要となりそうです。