法人が減価償却費として損金の額に算入できるのは、償却費として損金経理した金額のうち、償却限度額までの金額とされます。では減価償却費ではなく他の勘定科目で損金経理したものはダメなのでしょうか。今回は、試験研究費として全額を損金にした試作品製作費を償却費として損金にできるかが争われた事例(昭和59年6月13日裁決)を紹介します。
償却費でなく試験研究費として損金経理
電子計算機の製造業を営むA社は、新製品開発のための試作品を2種類、合計27台製造しました。その試作品は営業所に配置され、展示および来客のための演算の実演用に供されていました。A社は法人税の申告にあたり、この試作品の製造に要した費用3900万円ほどを試験研究費として全額損金の額に算入したのですが、税務署は試験研究費ではなく器具備品を取得した費用に当たるとして資産計上すべきと指摘。過少申告加算税を課しましたが、この処分を不服とするA社は国税不服審判所で争うこととしました。
税務署は、法人の損金の額に算入される試験研究費には基礎研究および応用研究の費用が該当し、明らかに製品の工業化研究ないし固定資産の政策などに要した費用は法人税基本通達に照らして製品ないし固定資産の取得価額に算入すべきと主張。そのうえで、減価償却として算入できる金額は、法人が償却費として損金経理した金額のうち償却限度額に達するまでとされているところ、A社が電子計算機の製造に要した費用は試験研究費として損金経理されたため該当しないとしました。
「償却費として損金経理」の範囲
A社は、電子計算機は1台ないし2台を試作した程度では完成するものではなく、製品を完成させるまでに要する費用はすべて試験研究費として損金すべきと反論しました。仮に器具備品に該当するとしても、ランニングテストなど新製品を開発するためにも使用してることから「開発研究の用に供されている減価償却資産」に該当し、減価償却限度額の範囲内の損金算入を認めるべきとしました。
審判所は、A社が試作した電子計算機を営業所に配置し展示や演算の実演用に供していることからすれば、仮に試作品として製作されていても器具備品に該当すると判断。製作に要した費用は器具備品としての取得価額に算入されるべきとしました。
ランニングテストなどの用に供していることから減価償却限度額の範囲内で損金算入を容認すべきであるとの主張に対しても、償却費として損金経理した金額とは単に損金経理された科目のいかんによるものではないとしたものの、資産の取得に要した費用の全額を他の勘定科目により損金経理した場合まで償却費として損金経理したと解することはできないとして、試験研究費として損金経理したA社の処理は償却費として損金経理したものとはいえないとしました。その結果、電子計算機が開発研究用資産に該当するかどうかについて判断するまでもなく、償却限度額に相当する額の損金算入を容認することはできないとしてA社の主張を退けました。
【教訓】
A社は、試験研究との判断と原価償却の可否という2点で主張を退けられていますので気の毒ではあるのですが、試験研究費の範囲や「償却費として損金経理」の意味合いを知る意味では学ぶところの多い事例になっていますので、同様の事例があった場合には参考にしたいところです。