税務申告に当たっては、書類作成の基礎となった資料の保存も必要とされます。では、その資料を破棄してしまうと、その行為は重加算税の対象となる「偽りその他不正の行為」に該当するのでしょうか。今回は、売上を把握するための売買仕切書破棄したうえで収入を過少に申告していたことが重加算税になるかが争われた事例(平成27年8月27日裁決)を紹介します。

売買仕切書を確認後破棄

底引網漁を営んでいるAさんの主な収入は、出荷先業者に売買を委託した魚介類の販売料金でした。出荷先業者は、Aさんが出荷した魚介類を販売した日ごとに出荷代金や委託販売に係る販売手数料、トロ箱代を記載した「売買仕切書」を作成し、精算金額に係る現金と一緒に茶封筒に入れてAさんに渡していました。しかしAさんは内容を確認した後には、売買仕切書を捨ててしまっており、確定申告の際には知人などに茶封筒と経費の領収書等を手渡して計算を依頼していました。この茶封筒には、取引の年月日、氏名および精算金額が記載されており、収支内訳書の「売上(収入)金額」欄には茶封筒に記載された精算金額の合計額が記載されてました。

Aさんの事業所得につき税務調査に訪れた調査担当者は必要な帳簿書類の提出を求めましたが、Aさんは直近の年分の茶封筒と経費の領収書等のみを提示し、前年分以前の書類については捨てた旨を申述しました。調査の結果、税務署はAさんの申告に係る収入金額は実際の収入金額に比べて著しく過少であると判断。書類を捨てていたことなどについては重加算税の要件に該当するとしましたが、Aさんはこの認定には誤りがあるとして、処分の取り消しを求めて国税不服審判所で争うこととしました。

意図をもって破棄したと判断

税務署は、Aさんが売上の一部をあえて申告内容に反映させなかったとともに、毎年の所得金額がほぼ一定になるよう収入金額を調整していたと主張。多額の所得があったにもかかわらず、その一部だけを作為的に記載した申告書を提出したことや、通常であれば保管しておくと考えられる資料をあえて散逸させていたことは、重加算税の要件となる「偽りその他不正の行為」に該当すると主張しました。

これに対しAさんは、所得金額が一定になるよう収入金額を調整したことはなく、調査担当者の誘導尋問によってそのように申述させられただけと反論。売買仕切書を捨てたことについても、収入金額の把握には茶封筒に記載された精算金額があれば足りると認識しており、売買仕切書を保管する必要はないと考えていただけとして、事業所得の金額の金額の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいしたことはないとしました。

審判所は、Aさんが当初から収入金額を過少に申告する意図のもと、故意に売買仕切書を破棄して真実の収入金額を把握し難くし、隠ぺいを図っていたものと認定しました。そして故意に売買仕切書を破棄し、収入金額を隠ぺいしたAさんの行為は、工作を伴う不正な行為ということができるとして「偽りその他不正の行為」と結論付け、Aさんの主張を退けました。

【教訓】

故意であれ偶然であれ、資料の紛失が納税者にとって有利に働くことはありません。その紛失によって所得の額が過少となった場合にはこの事例のように重加算税が賦課される可能性もありますので、資料の保存は慎重に行いたいところです。