会社の代表者が個人として他の事業を営んでいるということは珍しい話ではありません。その事業の経費を会社が立て替えると、税務上では会社のお金を個人が私的に流用していると見られ、役員報酬を受けたものとして所得税が課税されることもあります。同族会社でよくみられるお金の流れですが、会社と個人事業は別の経済主体なので、望ましいことではないのです。
今回は会社が立て替えたお金が役員報酬とされるかどうかが争われた事例(平成24年6月26日裁決)を紹介します。
会社の口座通じて個人事業を展開
個人としてコンビニエンスストアを経営していたAさんは、自分が役員を務めるB社の銀行口座を通じてフランチャイズ運営会社から売上金などの入金を受け、人件費などを支払っていました。B社はAさんの個人事業のお金の出入りに関わる形になっていたものの、仮受金勘定を使用して「あくまで立て替えをしているに過ぎない」という体裁を整えていたので、この時点ではAさんとB社の損益に影響はありません。
しかしB社は、コンビニにかかる車両関係費用の立替払いもしていて、年によってはその金額をそのままB社の損金の額に算入していたこともありました。Aさんの個人事業であるコンビニ経営とB社の間で、費用に関する線引きが不明瞭な部分があったことになります。
そのため税務調査で「全ての経費はAさんの事業に関わるもの」と指摘され、B社は経費分を損金から除外し、Aさんは個人事業の必要経費として修正申告しました。
立て替えなら給与課税はなし
Aさんは税務署の指摘に従って修正申告を済ませたのですが、税務署に「立替払いは役員の地位に基づいてAさんが経済的利益を享受したもの」と指摘され、給与所得として更正処分を受けることになりました。いったん税務署の指摘に基づいて修正申告していたAさんは、ここではおとなしく従うことはせず、国税不服審判所に判断を委ねることとしました。
Aさんの主張は、税務署の指摘を受けて修正申告をした後、経費に計上する主体がB社から自分に移動した以上、個人と法人の間の取り引きは単なる資金移動でしかなく、給与課税されるのはおかしいというもので、至極まっとうな主張です。
国税不服審判所の判断はAさんの主張を支持するもので、コンビニの損益はB社に帰属するものではなく、その全てがAさんに帰属するものと認められることを踏まえると、B社が支払ったコンビニの経費は立替金とみるのが相当としました。Aさんが役員として経済的な利益を享受したと認めることはできないとして、Aさんの主張を受け入れたことになります。
口座からの出入金をB社が仮受金と経理していたことも、Aさんの主張を受け入れることにつながったようです。
【訓教】
税務署は公私混同をしている会計処理を見つけると「隙あらば」といった感じで様々な課税の可能性を探ってくることがあります。最終的にはAさんの主張は認められたものの、最初からきちんと会社と個人事業の資金を区分していれば修正申告することも国税不服審判所まで争いが長引くこともありませんでした。国税当局との争いごとは極力避けた方がよいので、多少面倒であっても、突っ込みどころの少ない経理方法を日頃から心がけた方がよさそうです。