損害賠償金などは原則として所得税が課されませんが、その賠償金が業務の収入金額に代わる性質を有するときは、その業務に係る収入金額とされます。今回は、賠償金の算出に使用した書類に偽装があった場合に、その賠償金が事業所得となるか雑所得となるかが争われた事例(令和元年8月23日裁決)を紹介します。

受け取った賠償金を後日返還

個人事業を営むAさんは、外的事情により事業に係る逸失利益があったとして、相手先に対して売上高および貢献利益率等を基に算出した賠償金を請求しました。相手先と合意書を作成したうえでAさんは賠償金を受け取り、その年の確定申告に係る修正申告の際に、その金額を事業所得の総収入金額に含めました。しかしその後、この賠償金について全額を返還する旨の合意に至り、Aさんは賠償金を相手先に返還しました。

所得税法では、各種所得の金額(事業所得の金額ならびに事業から生じた不動産所得の金額および山林所得の金額を除く)の計算の基礎となった事実のうち、無効な行為により生じた経済的成果が失われたときには更正の請求を行えると定めています。Aさんは賠償金という経済的成果が失われたとして、更正の請求を行いました。しかし税務署は更正をすべき理由がない旨の通知処分を行ったため、Aさんは国税不服審判所で争うこととしました。

この争いでは賠償金が事業所得となるかが総論となりました。所得税では、事業所得を生ずべき業務を行う居住者が、業務の全部または一部の休止などによりその業務の収益の補償として取得する補助金などで、その業務の収入金額に代わる性質を有するものは収入金額とする旨を規定しています。

算出根拠が判断基準に

税務署は、Aさんが事業所得を生ずべき業務を行っていること、この賠償金は減収が生じた者に対して逸失利益の賠償としての性質を有するものであることから、「その業務の収入金額に代わる性質を有するもの」に該当し、事業所得の総収入金額に該当すると主張。事業所得はAさんが根拠とする更正の請求の規定には該当しないことから、更正の請求は認められないとしました。

これに対してAさんは、この賠償金はAさんの長男らによって偽装された請求に基づき不正に得られたものであるから、収入の補償として取得したものではないと反論。事業所得ではなく、雑所得に該当するものであり、更正の請求が認められるべきとしました。

事実関係を確認した審判所は、この賠償金はAさんの事業の売上高および貢献利益率等を基に算出した逸失利益の補償として取得したものであり、「事業所得を生ずべき業務の収益の補償として取得する補償金」であるため事業所得の総収入金額に該当すると判断。Aさんが更正の請求の根拠とした規定では、事業所得の金額の計算の基礎となった事実に係るものを除いていることから、更正の請求は認められないとしました。また、偽装された請求によって不正に得られた賠償金であり事業所得に該当しないとするAさんの主張も前面に退けました。

【教訓】

賠償金に関しては、課税か非課税かというポイントもあるのですが、この事例では課税されることを前提としたうえで所得区分が争点になりました。結論には納得感はありますが、賠償金については課税か非課税か、所得区分は何かなど、悩ましい論点が多いということを再確認した事例となりました。