税務署は、原則として納税者から提出された書類をベースに税務申告などの事務処理を行いますが、後になってから納税者が「その書類は自分が作成したものではない」と主張したときには、その処理は無効になるのでしょうか。今回は、従業員が勝手に作成したとされる滞納国税についての納税保証書の有効性が争われた事例(令和2年7月1日裁決)を紹介します。

従業員が無断で作成したと主張

税務署は、Aさんが代表取締役をつとめるB社に対して源泉所得税の納税告知を行いましたが、納期限までに完納されなかったため、国税通則法に基づき督促を行いました。督促を受け、B社の従業員であったCさんは税務署を訪問。毎月20万円ずつ分納する旨の申し立てを行い、代表者であるAさんが納税保証をする旨が記載された納税保証書の提出も行いました。この申し立てを受けて税務署は猶予期間を12か月とする換価の猶予を決議。結局、B社がその後も滞納分を期限までに完納できなかたため、税務署は納税保証人であるAさんに対して納付告知処分を行いましたが、Aさんはこの処分は違法だとして国税不服審判所で争うこととしました。

Aさんは、納税保証書はCさんが独断で作成したものと主張。実印を保管していた引き出しの鍵をCさんが管理していたことやCさんは問題行動を頻発させてその後退職し、およそ誠実とはいえない社員であり保証書を無断で提出しても不自然でないこと、税務署職員が納税保証人であるAさんに対し本来行うべき保証の意思確認をしていないことなどを理由に、この納税保証書は真正に成立しておらず、Aさんは滞納国税について保証をしていないとしました。

反証がない限りは有効と判断

税務署は、納税保証書の印影がAさんの印鑑登録証明書のものと同一のものであることから、Aさんの意向に基づいて押印されたものと推定。Cさんが無断で納税保証書を作成したとする主張には客観的裏付けがないこと、Aさんに意思確認をしなかったのは保証の意思が明らかであったためなどとして、処分は適法であると反論しました。

審判所は、私文書中の印影が本人の印章と確定された場合には、反証がない限り本人の意思に基づいて成立したものと推定するのが相当とする昭和39年5月12日の最高裁判決をベースに検討を進めました。そして納税保証書にAさんの実印が押印されていること、保証書が作成された当時の実印の保管および使用については明らかでないが、実印という重要かつ日常的な業務には通常必要とはいえないものを問題行動を頻繁に起こすような従業員が自由に使用できたということは直ちに信用し難いこと、無断で保証書を作成するという不利益を被る危険のある行為をわざわざ行う動機をCさんが有していたと認めるに足りる証拠はないことなどからして、押印が本人の意思によらないとする証拠はなく、Aさんは納税保証をしたと認められると結論付けました。

【教訓】

判断のベースとなったのは勝和39年5月12日の最高裁判決における、反証がない限りは本人の意思と推定するとする考え方です。書類自体の作成者を特定するのは難しく、水掛け論になってしまう可能性があると考えると、こういった基準は必要なのかもしれません。現在では税務関係書類に押印は不要となっていますので、その場合の判断はどうなるかというところも気になるところではあります。