所得税は現金だけでなく、様々な経済的利益に対して課されますが、例外的に従業員が社宅を低額や無償で貸与されたときなどは非課税としています。では業務委託先に住宅を無償で貸与したケースではどうなるでしょうか。今回は、業務委託契約に伴い無償で提供された住宅の賃貸料が課税対象となるかが争われた事例(平成19年7月9日裁決)を紹介します。

業務委託でも社宅と同様に扱うべきか

Aさんは、B社との間でコンビニエンスストアの運営管理業務の受託契約を締結し、店長として業務を行っていました。その後、受託店舗が変更となったことに伴い、Aさんは新たな店舗の近くに転居しました。この転居にあたってはB社が家賃分を負担することになり、転居先の住宅はB社名義で契約。月額家賃はB社が負担したうえで、Aさんに無償で貸与していました。

Aさんは確定申告の際、受託契約に係る報酬を事業所得としていましたが、住宅の無償貸与については計算に織り込んではいませんでした。それに対し税務署は、月額家賃相当額はAさんの事業所得の総収入金額となるべき経済的利益に該当するとして、過少申告加算税の賦課処分を行いました。しかしこの処分を不服としたAさんは、国税不服審判所で争うこととしました。

Aさんは、この転居はB社からの店舗変更要請に伴い、店舗から30分以内の区域に居住することが求められたためであると説明。そのうえで、所得税法では給与書所得者が職務の遂行上やむを得ない必要に基づき社宅などの貸与を受けることによる利益については所得税を課税しないとい定めていることを引き合いに出し、同様の事情があるなら事業書所得者も同様に取り扱うべきと主張しました。さらに仮に経済的利益があったとしても家賃相当額は必要経費であり、差し引きすると所得は生じないとしました。

実態が同様であれば取扱いも準用

これに対して税務署は、所得税基本通達において、家屋などの貸与を無償などで受けた場合における経済的利益は総収入金額に算入すべきとされていること、社宅の貸与を受けることによる経済的利益が非課税とされるのは給与所得者であるが、AさんとB社の契約は業務委託であることなどから非課税にならないと反論。加えて、支払った家賃相当額は家事費であり必要経費に算入できないとし、真っ向から対立しました。

審判所は、Aさんが住宅を無償で使用したことは家賃相当額の経済的利益を受けていたとしたものの、この住宅はB社がAさんに対し居住の用に供するために提供していたものではなく、業務を遂行させるに当たって業務上の必要性および防犯上等の観点からAさんに提供していたと認めるのが相当であると判断。Aさんから見れば業務遂行上必要なものとして使用していたに過ぎす、そうするとAさんの受けた経済的利益の金額と必要経費とされる家賃相当額は同額であることから、所得金額は生じていなかったと判断。更正処分は違法であり、取り消すべきと結論付けました。

【教訓】

通達を文字通り読めば、住宅の低額や無償での貸与が非課税とされるのはあくまで給与所得者となります。しかし事態が同様であれば、業務委託でも同様に取扱うとする今回の結論からは、文字だけでなく内容もしっかり考える必要があると再認識させられます。「通達に書いてあるから」とあきらめるのではなく、しっかり検討したいところです。