国や地方公共団体が公共事業のために土地などを取得する「収用」があったとき、土地オーナーは譲渡所得の5千万円の特別控除を受けられます。この特例は法律で要件が定められているのですが、その要件を満たしていない場合であってもやむを得ない事情があれば特例の適用を受けられるのでしょうか。今回は、借家人の立ち退きが遅れたという事情で要件を満たせないケースで特例を適用できるかが争われた事例(平成20年6月25日裁決)を紹介します。

2年に分けて契約を締結

Aさんは、建物Bと建物Cを賃家として所有していました。ある年の土地区画整理事業で、Aさんは事業施工者との間で建物Bについてその年の10月、建物Cについては翌年3月付で移転補償契約を締結し、それぞれ補償金の支払いを受けました。

Aさんはこの補償金について、その年に建物Bについて、翌年に建物Cについて租税特別措置法に規定する5千万円控除の特例を適用し、事業施工者から交付された収用証明書等を添えて申告したのですが、税務署は建物Cについては特例を適用できないとして所得税の更正処分を行いました。Aさんはこの処分を不服として国税不服審判所で争うこととしました。

租税特別措置法では、一の収用交換等に係る事業につき資産の譲渡が二以上あった場合、これらの譲渡が二以上の年にわたってされたときは、最初に譲渡があった年に譲渡された資産以外は5千万円控除適用をしない旨を規定しています。

税務署は、建物BとCに係る補償金は同一の事業に関して交付されたものであり、補償金の交付は別の年度となっていることから、租税特別措置法の規定どおり建物Cには5千万円控除を適用することはできないと主張しました。

審判所はあくまで規定を重視

Aさんは、この移転補償契約は当初は一括して契約する予定だったところが、建物Cの借家人の立ち退きが大幅に遅れたためやむを得ず年をまたいで契約したと説明。その上で、2年にわたって契約されたとしても収用の根本的な意義からして権利者の保護に配慮し、特例の適用を認めるべきであると反論しました。租税特別措置法は故意に二以上の年に分けて譲渡したような場合に特例の適用を認めないとするもので、この移転補償契約は故意ではないことからも特例を認めるべきであるとしました。

審判所は、借家人の立ち退きの遅延を起因として2回に分けて契約したものというAさんの主張は認めたものの、たとえ2回に分けて契約したことについてAさんの責めに帰すべき事由がなく、また2回に分けて行われたことについてやむを得ない事情があったとしても、このような場合に5千万円控除の特例を適用できる旨の法令上の規定はないことから、建物Cについては特例を適用することはできないと判断しました。さらに譲渡が2以上の年に分かれた理由によってその適否が異なるとの規定はないとして、二以上の年に分けたことが故意であるか否かに関わりなく適用の可否は判断されると結論付けました。

【教訓】

やむを得ない事情があったとしても、規定上の要件を満たしていないのであれば特例は適用できないというのは一見厳しそうに見えますが、税法の基本的な考え方を大事にしたものとも言えます。「こういう事情だから分かってくれるだろう」などとは考えず、規定の要件をしっかり検討したいところです。