個人が得た収入が臨時所得などに該当するときには、通常よりも税率が低い「平均課税制度」の適用を受けられます。適用を受けるための最大の問題は臨時所得などに該当するかどうかです。今回は、賃貸不動産に係る違約損害金が臨時所得に該当するか争われた事例(平成9年6月12日裁決)を紹介します。
中途解約の違約金を取得
Aさんは、所有していた土地建物についてB社との間で月額賃料を300万円、賃貸借機関を20年とする賃貸借契約を締結していました。この契約では、B社から中途解約の申し出があったときにはAさんに違約損害金が支払われることになっていました。そして期間満了まで7年を残してB社から中途解約の申し出があったため、Aさんは違約損害金5千万円を受領しました。
確定申告の際にAさんは違約損害金は不動産所得の収入金額であるとともに臨時所得に該当するとして平均課税制度を適用しました。これに対して税務署は、違約損害金は臨時所得に該当せず平均課税制度は適用できないとして、更正処分および過少申告加算税の賦課を行いました。しかしAさんは納得できず、国税不服審判所で争うこととしました。
所得税法では、一定の場所における業務の全部または一部を休止、転換、廃止することとなったときに、当該業務に係る「3年以上の期間の不動産所得、事業所得または雑所得の補償として受ける補償金に係る所得」は臨時所得と定めており、違約損害金がこの要件に該当するかどうかが争点となりました。
臨時所得における「3年以上」の測り方
税務署は、違約損害金の算定根拠について具体的な定めがないことから、3年以上の期間に対応するものと考えることはできず臨時所得には該当しないと主張しました。対するAさんは、違約損害金は補償期間の逸失利益の補償であり、残余期間とその間の所得等を計算根拠とするものであると反論。さらに賃貸借契約の解約日から契約書上の賃貸借契約期間満了まで6年11か月あることから、3年以上の期間を基礎とした所得の補償と認められると主張しました。
審判所は、所得税法でいう「3年以上」は残余の賃貸借期間をいうのではなく受領した金額を考慮して計算するとした上で、「所得の補償」とは何かという点から検討をしました。
「所得の補償」とは、不動産貸付業務を継続すれば得られたであろう所得の額を補償するものです。その所得を得るためには租税公課などの費用も必要ですので、審判所はいわゆる所得の額だけではなく費用も併せて補償することが必要であると解釈。所得の額と費用の合計額、すなわち収入金額に相当する金額を補償して初めて所得の補償になると前提を置き、臨時所得に該当するかどうかの判断には、違約損害金の額を1年当たりの所得金額ではなく、1年当たりの収入金額で除して保証期間を算定するのが合理的としました。そして違約損害金5千万円を1年当たりの収入金額に相当する3600万円で除したところ、その期間は約1年5か月。3年以上の補償には当たらないとして、臨時所得には該当しないとの判断を下しました。
【結論】
単純に残余期間ではなく違約損害金を年額で除して計算すること、その年額は所得ではなく収入を使うことなど、かなり具体的な判断方法が示された裁決です。同様の事例にはそのまま当てはめられそうですので、覚えておきたい事例かと思います。