申告内容に誤りがあったときには、納税者は税務署に対して更正の請求を行い、それでも認められなければ国税不服審判所で争うことができます。しかしその際、当初の更正の請求と異なる内容を争点にできるでしょうか。今回は、更正の請求時を超える金額を争点とする主張が認められるかが争われた事例(平成28年6月24日裁決)を紹介します。

親族名義の解約金が被相続人の口座に入金

Aさんは、信用金庫に口座を有していました。ある時その口座が解約され、解約金300万円が同じ支店にあったAさんの父親名義の預金口座に振替入金されました。その後、父親が死亡したためAさんは相続税の申告をしたのですが、その相続財産には300万円の解約金を含んだ父親名義の普通預金口座も含まれていました。

その後Aさんは、Aさん名義の預金口座の解約金が父親名義の口座に入金されていたことは預金規約に照らして不当であるとして、預金払戻請求権に基づき信用金庫に対して訴訟を提起。解決金180万円を取得する形で和解をしました。

Aさんは、この和解によって取得した180万円は父親名義の口座に入金された300万円の一部であり、相続財産に含まれるべきではなかったとして税務署に対し更正の請求をしました。しかし税務署は更正をすべき理由がない旨の通知処分をしたため、納得できないAさんは、そもそも300万円が相続財産に含まれていたこと自体が誤りだったとして審判所で争うこととしました。

争いの対象は更正の請求額まで

Aさんは、信用金庫との和解においては、父親の口座に入金された300万円がAさんに帰属することが前提とされていると主張。相続税の申告に係る課税標準等または税額等の計算の基礎となった事実が当初の想定と異なることが確定したといえるとして、300万円の解約金は相続財産から減額されるべきであるとしました。

これに対して税務署は、この和解は信用金庫に対してAさんに対する解決金180万円の支払義務があるとしているにすぎず、父親の口座に入金された300万円の帰属に関する権利関係を明確にしているとはいえないと反論、相続税の計算には影響を及ぼすものではないとしました。さらに審判所において処分の取消しを求めることができるのはAさんが更正の請求において減額を求めた180万円に限られるとして、その金額を超える部分については請求自体が不適法だと主張しました。

審判所は税務署の主張を支持し、信用金庫との和解の内容はあくまで預金払戻請求権に基づく預金等の支払を求めるもので、解約金180万円の支払義務があることを確認したものにすぎず、相続税の申告内容に影響を及ぼすとする主張には理由がないとしました。また更正の請求において減額を求めた180万円を超える300万円の取消しを求めている点に関しても、審判所における争いにおいて取り消すことができるのは更正の請求額までであると判断。Aさんの主張を全面的に退ける結論を下しました。

【教訓】

争点のうち、本来Aさんの預金であったものが相続財産にされてしまったという点は個人的には少々モヤモヤするところですし、今後に生かせそうな気もしません。しかし、もう一つの争点である、更正の請求での論点を超える請求は認められないという点に関しては、改めて認識をしておきたいところです。