所得税法では、有償無償を問わず所有資産を移転させる行為をすべて「譲渡」と認識し、そこで生じた所得を譲渡所得として課税しています。なかには固定資産の交換など、一定の場合に「譲渡」がなかったものとする特例もありますが、その要件は厳しいものとなっています。今回は事業開発に伴い行われた土地の交換が「譲渡」に該当するかが争われた事例(平成28年6月16日裁決)を紹介します。

開発事業に伴い土地を交換

Aさんは、B社が計画する事業開発区域の中に土地を所有していました。B社は、Aさんの土地と開発区域内にある他の所有者が有する土地を等価で交換することを提案し、Aさんはそれに応じ、もともと持っていた土地を手放し新たな土地を取得しました。その年の確定申告の際、Aさんはこの交換について何ら記載のない所得税の申告書および譲渡所得の内訳書を申告期限内に提出。しかし税務署は、課税対象となる「譲渡」とは有償無償を問わず所得資産を移転させる一切の行為を差し、通常の売買のほか交換なども含まれるとして、譲渡所得の申告漏れがあるとして所得税の更正処分および過少申告加算税の賦課決定処分を行いました。この処分に納得できないAさんは、取消しを求めて国税不服審判所で争うこととしました。

Aさんの主張は、「交換分合通達」と「宅地造成通達」という2つの所得税基本通達を理由とするものでした。これらの通達は、一団の土地の区域内に土地を有する2以上の者が、その土地の利用の増進を図るために行う土地の区画形質の変更に際して土地の交換分合を行った場合や、一団の土地の区画形質の変更事業が施行されるときに、施行者と土地所有者との間が契約を締結し、所有者の土地を事業施行のために施行者に移転し、事業完了後に区画形質の変更が行われた区域内の土地の一部を取得したとき、譲渡はなかったものとして取り扱う旨を定めているものです。

Aさんは、この土地の交換に対してはこの通達が適用され、「譲渡」がなかったものとして取り扱われると主張しました。

通達の要件のすべては満たさず

これに対して税務署は、交換の当事者が土地の所有者ではなくB社であることは「交換分合通達」の要件を満たさないとするなど、Aさんが行った土地の交換は通達の要件を満たさず、譲渡がなかったものとはされないと反論しました。

審判所は通達の要件のうちに、その土地の異動が道路その他の公共施設の整備、不整形地の整理などに基因する必要最小限の範囲内であるものであるとする、と定めている点に着目。B社の行う事業は商業用地の開発を目的とするものであり、通達で定める公共施設の整備などに基因して行われたものとは認められず、四囲の状況からみて必要最小限の範囲内のものとも認められないと判断。Aさんが行った土地の交換は通達の要件を満たさないためAさんの主張には理由がなく、所得税法に規定する「譲渡」がなかったものとして取り扱うことはできないと結論付けました。

【教訓】

この通達だけでなく、「譲渡」がなかったものとして取り扱われる特例が所得税法にはいくつかあります。しかし、そこには様々な要件が付されており、1つを満たさないだけで特例を受けることができなくなります。そういった特例を受けようとする場合にはしっかり要件を確認し、あとで問題とならないようにしたいところです。