所得税は年ごとに計算すること(暦年課税)を原則としています。この原則は、年をまたいで継続する取引にも適用されるのでしょうか。今回は、4年にわたって継続していた外貨建取引にかかる為替差損益が、毎年認識されるべきか最終取引の際にまとめて認識されるべきかが争われた事例(平成28年6月2日裁決)を紹介します。

計算期間についての見解が相違

Aさんは、B銀行が個人向けに提供する、預入期間の定めのない米ドル建ての外貨預金口座を開設しました。この外貨預金は原則として、円を米ドルに交換して預け入れるもので、払出方法は、米ドル現金か円に交換しての払い出しとされていました。

Aさんは口座開設以来、継続して預け入れと払い出しを行っていましたが、この外貨預金から生ずる為替差損益を申告していませんでした。果たして口座開設から4年後、税務署はこの外貨建取引から生じた為替差損益を雑所得とする更正処分を行いました。Aさんは為替差損が雑所得となることは認めたのですが、税務署が雑所得して認定した金額は過大であるとして、一部の取り消しを求めることとしました。

Aさんによれば、外貨建取引は口座開設日から最終払出日までの継続した取引であるから、この取引に係る為替差損益はその全期間の取引を基礎として計算されるべきと主張。4年間に米ドルを取得するために普通預金口座から出金した金額の合計額と、外貨預金口座から普通預金口座に入金された金額の合計額との差額である為替差益の金額は520万円としました。

税務署はあくまで原則を優先

これに対し税務署は、外貨預金口座から米ドルが引き出せると同時に円が普通預金口座に入金されていることから、この取引は所得税法に規定する外貨建取引に該当するとしました。所得税法では、外貨建取引については取引を行った時における為替相場により換算して所得の金額を計算する旨を規定しており、さらに、その収入計上時期については取引行われた日とするのが相当であることが所得税基本通達において定められています。そのためAさんの外貨建取引についてもそれぞれの取引が行われた年において雑所得が計上されると反論。Aさんの更正処分が行われた年分の為替差益は1088万円となるとしました。

取引期間のトータルで計算すべきとするAさんと、単年で計算すべきとする税務署のそれぞれの主張を確認した国税不服審判所は、法律に則って判断を進めました。所得税法においてはこの取引は外貨建取引に該当すること、収入計上時期の原則的な考え方によれば外貨預金が払い出されるタイミングごとに収入すべき金額が実現したものとして所得を認識する必要があることなどを確認したうえで、税務署の主張を認めました。

Aさんの主張については、所得税法は1暦年を単位としてその期間ごとに課税所得を計算し課税を行うことを前提としていること、その原則に対する特段の例外規定が所得税法には用意されていないことなどから採用することはできないとしました。

【教訓】

所得税の原則は暦年課税になりますので、例外規定が設けられていない以上はこの結論は妥当なものです。外貨預金にかかる為替差益などは意識をしていないと見落としがちになってはしまいますが、お金が動いているところには課税の可能性がついて回るということは意識しておきたいところです。