うっかり詐欺商法に投資してしまったとき、その分配金や損失は税務上どう取り扱われるものでしょうか。今回は分配金は課税の対象となるか、回収できない投資金は必要経費となるかが争われた事例(平成28年3月23日裁決)を紹介します。

投資詐欺は無効な契約と主張

Aさんは、投資取引を行うB社に自分の名義の他第三者名義を用いて投資を行い、分配金を受け取っていました。しかしB社はある日を境に分配金の支払いを停止し、解約による投資金の返還に応じなくなっていきました。

Aさんは分配金について確定申告をしなかったのですが、税務署は分配金が雑所得に当たるとし、さらに第三者名義で投資を行ったことは「隠ぺい又は仮装」に該当するとして、所得税の更正処分と無申告加算税、重加算税の賦課決定処分を行いました。納得できないAさんは取り消しを求めて国税不服審判所で争うこととしました。

Aさんは、そもそもB社が行っていたのは詐欺商法であると主張。投資自体が公序良俗に反するため無効であり、分配金は課税の対象とならないと主張しました。また詐欺商法では投資時に投資金と同額の損害賠償請求権が発生しており、実質的に回収不能となっている現状を顧みると損害賠償請求権相当額が必要経費に算入されるべきと主張しました。さらに、「隠ぺい又は仮装」にあたるという指摘に関しても、分配金から源泉徴収されていると説明を受けていたことから、申告義務はないと認識しており、重加算税は不当であるとしました。

課税条件が満たされているかが重要

税務署は、この投資取引はB社との間の有効な契約に基づくものであり、その契約に基づいて受け取った分配金は雑所得に算入されると反論。またAさんが投資金について返還請求の訴えを提起していないことから、損害賠償請求権が発生した事実および損失として確定している事実が生じていないとして、必要経費には算入できないとしました。

審判所は、税法の見地からは課税の原因となった行為が客観的評価において不適法または無効とされるかどうかは問題ではなく、当事者の間で有効なものとして扱われ、現実に課税要件事実が満たされていると認められれば租税を賦課徴収することは何ら妨げられないと前提を置きました。そしてAさんが分配金を現実に支配管理し、自己のために享受して、その担税力を増加させたといえるとして、分配金は雑所得の総収入金額に算入すべきとしました。

さらにAさんが損害賠償を求める訴訟を提起していないこと、B社が破産等の法的整理や精算等の私的整理などの手続を開始した事実も認められないことから、損害賠償請求権が法的に消滅されたとはいえず、回収不能となったことも認められないとして、必要経費に算入できないと判断。加えて、第三者名義を使用して投資を行うことは「隠ぺい又は仮装」に該当することは明らかとして、全面的に税務署の主張を認めました。

【教訓】

第三者名義まで使って投資をしていたという点であまり好感を持てないですし、汎用性もなさそうな事例ではあります。しかし、詐欺であっても金銭を支配管理し担税力が増加しているのであれば課税要件を満たすため課税対象になるというのは「どういった場合に課税されるのか」を考えるうえで重要な判断基準となりますので、しっかりと覚えておきたいところです。