会社に利益が出たときの代表的な節税策に生命保険への加入があります。会社にとって最善の生命保険を選ぶのは簡単ではありませんが、節税を意識して加入するのであれば、全額が損金になる商品や返戻率の高い商品に人気が集まります。

会社が契約した保険を個人が引き継ぎ、解約する際に個人の所得となる商品が注目を集めたことがあります。今回はそのタイプの保険を解約して返戻金を取得した際の所得税の課税方法について争いとなった事例(平成27年11月16日裁決)を紹介します。

法人から個人に保険を移動

A社は平成18年に取締役のBさんを被保険者、自社を契約者と死亡保険金の受取人とする生命保険に加入しました。そして保険料を4年間で2千万円ほど支払い、全額を損金として法人税の申告をしました。

ここまでであればよくある節税商品としての生命保険の話です。しかしA社はBさんに保険契約にかかる保険証券と権利義務の全てを譲渡することを決め、22年1月に保険契約者をA社からBさんに、死亡保険金受取人をA社からBさんの妻にそれぞれ変更しました。

ただで契約を移すというわけにはいかないので、A社の帳簿上ではBさんからの借り入れと相殺という形をとりました。

契約の引き継ぎ後にBさんは22年分の保険料を500万円ほど個人で支払いました。その翌年にBさんは保険契約を解約。解約払戻金を受け取りました。

受け取った解約返戻金は一時所得として課税の対象ですが、返戻金の額よりもA社とBさんが支払った保険料の合計額の方が多かったため、Bさんは課税される利益はないと判断して、確定申告書では利益を計上しませんでした。

これに対して税務署は、一時所得の計算で控除できる額は収入を得た個人が自分で支払った金額に限られるとしました。すなわち、A社が支払っていた保険料に関してはBさんの確定申告においては控除できないということになります。A社の支払い分も含めて控除したBさんには申告漏れが生じているとして、追徴課税の処分を下しました。

納得できないBさんは、国税不服審判所で決着をつけることとしました。

控除できるのは本人負担分だけ

国税不服審判所の結論は税務署の主張を支持するものでした。

審判所は、収入を得る人と支出する人が同じであることを前提に一時所得の計算では保険料の支払い分を控除できるのであり、自分が負担していない保険料は控除できないと結論付けています。また、A社が支払った保険料はA社の帳簿で全額が保険料として損金処理されていることもあり、Bさんの所得税の計算で控除することは認めませんでした。

【教訓】

節税策としての生命保険はあくまでも今年の利益を将来に繰り延べるものです。保険料を支払った年はその分を損金にすることで税額を減らせますが、解約返戻金や保険金を受け取る年にその利益に税金が掛けられます。

今回紹介した裁決では、契約や受け取りの主体を変えても節税という意味では効果がないということが分かります。保険への加入が節税になるという点が強調されることは多く、「保険を使ってうまく税金を逃れた」と思ってしまう経営者もいるのですが、後から課税処分を受けるとかなりつらいものです。最終的には税金を免れられないことを考えると、出口戦略はきちんと考えておく必要があります。