今年は台風や地震などの災害が多かったことから、損害保険や火災保険に関する相談を受ける機会が増えました。経営上で生命保険は退職への備えや節税策の一環で登場するくらいですが、損害保険と火災保険は事務所や車を持っているだけで必要なものなので、頻繁に姿を現します。

保険料の支払いについては税務調査で論点になることは少ないのですが、保険金の受け取りについては判断が分かれることがあります。今回は保険金を計上すべき時期について争われた事例(平成15年2月6日裁決)を紹介します。

損失と保険金を別の事業年度に計上

輸入業を営むA社は、平成12年に購入した車について保険会社と自家用自動車総合保険契約を締結しました。その翌年7月に車両が盗難に遭い、決算で937万6千円の損失を計上。そして、翌期に保険金969万円を取得し、平成14年7月決算の益金の額に算入しました。すなわち、13年決算では損失の分だけ税金が安くなり、14年決算では保険金の分だけ税金が高くなったのです。

税務署はこの税務処理に対し、会計上のルールである「費用収益対応の原則」に従って損失と保険金の利益を同じ事業年度に計上しなくてはならないとして否認しました。計上時期については、損害賠償金の基因である損害にかかる損失額の損金算入時期について定めた法人税基本通達(2 -1 -43の注)を踏まえると、盗難に遭った事業年度に損金にできるのは損失額から保険金で補てんされる金額を除いた額だけで、保険金で充当される分の損失は保険金額が確定した事業年度(平成14年)に損金にすべきとしました。

A社は、税務署が示した通達は損害賠償金の原因となった損害について定めたものであり、盗難による損害の税務処理の根拠にならないなどと反論。国税不服審判所で争われることとなりました。

保険金の額が確定するまで仮勘定

国税不服審判所の判断は税務署の課税処分を支持するものでした。期間損益の適正な算定という観点から、損失と保険金との間に対応関係を求めることが「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」によった処理であるとしました。そのうえで、損害保険に加入している場合には、損失が発生すると同時に保険会社に対する保険金の請求権が発生するため、保険金の額が確定した事業年度に損失と保険金の額を同時期に計上するべきと結論づけています。不服審判所の結論に則った税務処理の方法は、盗難による損失は保険金の額が確定するまで仮勘定として、その保険金の額が確定した事業年度に処理するというものです。

なお、盗難に遭った時点で損失を認識できるので、通常はその損失の額は被害を受けた事業年度の損金にするのが基本であるともしています。

【教訓】

支払い保険料と保険金の計上時期の根拠は法律では読み取れませんし、通達の表現もぴったり当てはまるものではありません。しかし、損失と保険金は同じ年度で対応させるべきという考え方は、所得税の医療費控除などでも採用されているので、税法では基本的なものといえます。

仮に保険金をもらえるかわからず先行して損失を計上してしまったなら、保険金が確定した段階で修正申告をすることとなっています。盗難などの被害に遭った挙げ句、税金でも痛い目に遭ってはたまらないので、保険の契約内容を確認のうえ慎重に会計処理をしたいところです。