会社が支払った費用の損金算入の時期は、役務の提供を受けた時点とするのが原則です。そのため、次の事業年度分の費用を今期にまとめて支払った場合、本来は今期の損金にはできません。しかし、前払い費用の額で支払い日から1年以内に提供を受ける役務に掛かるものについては、支払った年度に損金にできることになっています(=短期前払費用の特例、法人税基本通達2―2―14)。毎年、支払った年度に継続して損金にすることが条件です。

この特例は通達で定められた要件を満たすことが比較的容易なため、使いやすいものなのですが、時には要件を満たしていても税務署との間で争いとなることがあります。今回は、この取り扱いを巡って争われた事例(平成10年12月11日裁決)を紹介します。

5千万円の前払いは支払い時に損金になるか

港湾などの工事業務を営む6月決算のA社は、船主との間で交わしたチャーター契約書に基づき、翌年5月31日までのチャーター料1年分として5千万円を6月1日付で支払いました。そして全額を損金の額に算入しました。チャーター契約は前期から継続しているものであり、1年以内に提供を受ける役務に対するものであるため、通達の要件は満たしています。

しかし税務署は、2つの理由からこの会計処理を否認しました。まずこの通達は、重要性の乏しい取り引きについては簡便で特別な会計処理を認める「重要性の原則」に立脚しているものであり、今回の5千万円という金額は重要性が乏しいとは言いがたいので特別な処理は認められないという点です。もうひとつは、通達は販管費を対象としていることから、売上原価を形成するこのチャーター契約には適用するものではないという点でした。

ともに通達の文言からは読み取ることができない内容です。

通達の前提に「重要性の原則」

A社は重要性の原則に関する指摘については、法律や通達のどこにも明記されていないと反論しました。通達の適用に際して個々の前払い費用について重要性の判断が必要なら、そのことを明記していないのは通達の不備としました。

国税不服審判所は、通達には継続適用以外の具体的な適用要件は明記されていないものの、「重要性の原則を税務に取り入れたもの」ということを前提に置きました。そのうえで、チャーター料の金額を前事業年度と比較すると、246・21%の増加であることから、A社の財務内容からみて重要性が乏しいと認めることはできないとしました。また、売上原価に該当するか否かについてのA社の反論も否定しました。

【教訓】

税法では、税務の取り扱いは法律で定めるべしとする租税法律主義を採っていますが、実際には国税当局の内部の約束事である通達を基に処理するのが主流となっています。

通達はあくまでも法的な根拠とはなりません。今回の裁決のように、通達が創設された趣旨を勘案した結果、文言上の要件は満たしていても否認される可能性はあります。また反対に、通達どおりに処理しなくても、考え方が課税逃れなどに基づくものでなければ認められることもあります。通達を無条件に鵜呑みにはせず、時には検討をしてみるということも必要です。

短期前払費用の特例は金額が青天井に認められているわけではなく、重要性の原則による限定が加わっている点には注意が必要です。その「重要」の範囲が明確となっていない点が困るところではあります。