多くの会社と関わる仕事をしていると、最近は社員旅行を行う会社が減っていることを実感します。特に海外に行くケースは減っているのではないでしょうか。
社員旅行は税務上で注意すべき点があり、会社と税務署が争う事例は後を絶ちません。今回は旅行の金額が問題とされた事例(平成8年1月26日裁決)を紹介します。
海外への旅行は給与課税の対象か
土木建築業を営むA社が役員や従業員を対象に実施した社員旅行は、平成初期で景気が良かったためか、非常に豪華なものでした。平成3年にはシンガポール、4年にはアメリカ、5年にはカナダと海外旅行を重ね、参加者一人あたりの会社負担額は少ない年で26万円、多い年で57万円と多額の出費をしています。
社員旅行の費用について税務上で問題になるのは、税務署に高額とみなされると、「福利厚生費」ではなく、「給与」や「役員報酬」として処理しなければならないという点です。給与や役員報酬となると、原則として経済的利益を受けた人に所得税が課税され、会社は源泉徴収が必要です。役員報酬は福利厚生費と違い、損金にすることもできません。ただし、「目的地の滞在日数が4泊5日以内」と「全従業員の半数以上が参加」いう二つの要件を満たせば、給与課税されないルールもあるので判断が難しいところです。
A社は社員旅行の費用を福利厚生費として会計処理をしました。その理由は、社員旅行の費用を社員や役員に負担させている会社はまれであり、大部分の会社が全額負担するか、従業員に少額を負担させることで実施していることから、A社の負担は社会通念上一般的なものだということです。また、費用の大部分は航空運賃という旅行に不可欠な費用が占め、宿泊や飲食は決して豪勢なものではなかったため、負担分は社員旅行に必要な妥当な金額という考えがありました。さらに、社員が給与課税されない2要件を満たしているとして、給与課税なしとして処理していました。
最終的な決め手は金額の多さ
税務署はA社の税務処理を否認しました。その判断の理由として、これほどの高額な費用を全額負担する福利厚生行事が一般的に行われているわけではなく、一人当たりの金額が少額であるとは到底認められないという点を挙げています。A社の社員旅行の負担分は従事員に支給した臨時的な給与だと判断して、源泉徴収漏れなどを指摘しました。
A社は税務署の指摘には納得せず、国税不服審判所で争うこととなりました。
国税不服審判所はまず一人当たりの金額が多い点に着目し、社会通念上一般的に行われている福利厚生行事と同程度のものとは認められないとして、福利厚生費であることを否定しました。また、社員が給与課税されない2要件を満たしているとしても、会社の負担額が重視されるべきであるとして、給与課税されることとなりました。
【教訓】
社員旅行の費用は、福利厚生費か給与か、給与だとしても課税されるか非課税かというふたつの論点を含んでいます。今回の裁決では金額の多さが決め手となりましたが、その金額も裁決によってはタイ旅行の18万円が非課税で、19万円の九州旅行が課税されるといった判断があり、統一されていない印象があります。国内であるか国外であるかにかかわらず、15万円を超えるような旅行の際は気をつけた方がよいかもしれません。