想定よりも税額が多くなるときに法に則った節税策を講じるのは当然の権利ですが、中には税務署の目をかいくぐるような小細工で税逃れができないかと考える人がいます。その小細工が税務調査の際に問題となるケースは後を絶ちません。今回は書類上での「仮装」をした会社に関する事例(平成16年5月19日裁決)を紹介します。

契約締結日を仮装して消費税の負担軽減

10月31日を決算期末としていたA社は、11月25日にクライアントとの間でアドバイザリー料を支払う旨の契約書を作成した際、契約締結日を「10月1日」としました。これは、10月中に支出額を計上することで、アドバイザリー料をその事業年度の課税仕入れとして計算し、消費税を減らすことが目的でした。

A社は契約締結日を10月中にすれば問題が生じないと思っていたようですが、ここには大きな落とし穴がありました。消費税法上、課税仕入れの時期は、原則として物品の引き渡しや役務提供の完了のタイミングにしなければなりません。それに従うと、アドバイザリー料にかかる課税仕入れの時期は役務の全部を完了した日となるのですが、A社の役務は10月31日までには完了していませんでした。そもそも本来の契約締結の日が11月25日だったため、完了しているはずがありません。

税務調査では当然その部分を指摘され、アドバイザリー料は課税仕入れの計算から外されることとなりました。この部分に関してはA社も特に争うことはありませんでした。

課税判断とは無関係の仮装は争点とならない

ただ、税務署は課税仕入れを否認しただけではありませんでした。契約締結日に着目し、本来11月25日に締結していたものを10月1日と「仮装した」として、意図的に脱税した時に課税する「重加算税」も賦課したのです。

A社は重加算税の賦課に関しては受け入れませんでした。A社の主張は、契約締結日がいかなる日であっても、また仮に契約書の作成がなかったとしても、役務提供に関する課税仕入れの時期は役務の提供が完了した日と定められている以上、課税関係に影響しない部分の仮装は重加算税の要件には該当しないというものです。重加算税賦課の是非は国税不服審判所で争われることとなりました。

その結果、審判所はA社の主張を支持しました。その理由は、「役務提供の真実の完了日を仮装したものと認めることはできない」というものです。すなわち、契約書の契約締結日が真実の契約締結日と異なっていたとしても、課税仕入れの時期の判定要素となる役務提供の完了日を偽ったわけではないなら、重加算税の対象とはしないと判断したのです。

計上時期をごまかそうとしていたにもかかわらず重加算税が課されないという判断は意外ではありますが、法解釈としては妥当な形に落ち着きました。

【教訓】

この事例から学べる点は2つです。まず1つめは、税法では収入や経費の計上時期を引き渡しや役務提供のタイミングとしていることが多く、契約書などの書面上の日付をいじっても税負担の軽減効果はないということ。そしてもう1つは、課税の対象となる事実以外の部分で仮装しても、重加算税賦課の判断には影響を及ぼさないという点です。

ただ、2つめはあまり生かしどころのない教訓ですので、1つめの「そう簡単にごまかせるものではない」という部分だけまずは覚えておいていただければと思います。