「税」と名がつくものはすべて税理士の専門分野だと思われることが多いのですが、税の中にも税理士法で業務の範囲から除かれているものがあります。その代表格が印紙税です。

ただ、税理士は経営にまつわる様々な相談を受ける中で、印紙税と関わることが多いのが実情であるため、最低限の知識は持っているものです。それでも、書類が印紙の貼付を必要とするものかどうかの判断は時に難しいことがあります。

今回は社内管理を目的として作成した伝票が、印紙を貼付すべき書類に該当するかどうかが問題とされた事例(平成26年10月28日裁決)を紹介します。

伝票の作成は内部管理のため

製材業を営むA社は、各店舗に「お客様返金伝票」という伝票つづりを備え付けて、顧客から商品の返品や交換の申し出を受けて代金の返還や交換をする際に、その事実を伝票つづりに記録していました。この「お客様返金伝票」には、受付年月日、買上日、品名、返品商品の金額、受付者名などを記入するとともに、一定の条件の場合に顧客から受領のサインをもらうことがありました。A社がこの「お客様返金伝票」を作成した目的は、従業員の不正防止のほか、不良品の割合や内容の把握といった商品管理・返金額確認です。

A社はこの伝票に印紙を貼りませんでした。その理由は、内部の事務処理のためのものであり、金銭受領証明目的で作成されていないこと、また顧客から押印や身分証の提示を受けておらず連絡先の記入もほぼないため、課税対象となる「課税文書」にあるべき証明力がないことです。

しかし税務署は、その伝票を課税文書と判断して過怠税の賦課決定処分をしました。

一定の把握可能なら証拠書類として成立

税務署の主張は、印紙税の対象かどうかは会社の主観に基づく利用目的で判断するのではなく、あくまで法令に当てはめて考えるべきであるというものです。そして、署名を受けることで金銭の受領の事実が証されていること、また返金の際に署名したものが存在することなどを根拠に、「お客様返金伝票」が課税文書であることは否定できないとしました。

国税不服審判所の判断は税務署の主張を支持するものでした。

顧客の署名は姓だけのものなど不完全な記載もあったのですが、伝票には受付年月日、買上日、品名、返品商品の金額、品番が記されているため、いつどの商品を購入し、いつ返金を求めた顧客であるかは把握でき、「その顧客にA社がお金を支払った事実」の証明力が備わっていることから、伝票を「課税文書」としました。また、内部の事務処理のためのものだったというA社の主張は否定しなかった一方で「文書を作成する目的は必ずしも一つに限られるものではない」として、事務処理と同時に金銭受領証明の意味合いがあったと判断しています。

【教訓】

印紙を貼るべき文書であるかどうかの判断は、法律の専門家でも難しいものです。A社にとって、内部の管理用に作成した書類が印紙税の対象となるというのは青天の霹靂だったと見られます。しかし、今回のような判断が出ている以上、外部との金銭の授受などに関する書類を作成する際には、「もしかしたら印紙が必要かもしれない」という可能性は常に頭の片隅に置いておく必要があります。どのようなものでも書類を作成した際には社内でしっかり検討するか、税理士や弁護士に相談することをお勧めします。