税の世界は税法というルールで基本的にがんじがらめにされていて、書類の提出期限などきっちり決められていますが、「やむを得ない事情」がある時には要件を緩めることとなっています。今回はその「やむを得ない事情」に該当するかどうかが争われた事例(平成26年9月9日裁決)を紹介します。
刑事事件の捜査で帳簿用のパソコン破損
通信販売をしていたAさんは、刑事事件の捜査を受ける過程で、売上や経費の帳簿を管理していたパソコンを押収されました。捜査機関から返還を受けたパソコンは破損していたため、帳簿を使用できなくなってしまいました。
その後に受けた税務調査では、消費税の仕入税額控除が争点とされました。消費税法30条7項では、事業者が課税仕入れなどに関する帳簿や請求書を保存していなければ、仕入れ税額控除は適用しないとしています。税額控除が適用できなければ消費税を計算する際に経費が計上できないこととなり、税額の負担が相当に大きくなってしまいます。
Aさんの帳簿は捜査機関がパソコンを破損させたことによってなくなっているため、税額控除の要件を満たさないと税務署は判断しました。事情が事情なだけにAさんは黙って従うことはなく、国税不服審判所で争うこととなりました。
例外規定は主に災害時を想定
先ほど紹介した消費税法の30条7項には但し書きとして続きがあります。それは、「災害その他やむを得ない事情」で保存できなかったことを事業者が証明すれば、税額控除も可能というものです。Aさんは帳簿を保存できなかったのは「やむを得ない事情」があるためだとして、仕入税額控除を適用できると主張しました。
これに対して税務署は、このただし書きの文言を一つずつ定義していきました。曰く、災害とは、「震災、風水害、雪害、凍害、落雷、雪崩、がけ崩れ、地滑り、火山の噴火等の天災又は火災その他の人為的災害で自己の責任によらないものに基因する災害」としています。また、「やむを得ない事情」とは、災害に準じるような状況、あるいは当該事業者の責めに帰することができない状況にある事態と限定的に解釈をしました。すなわち、刑事事件の捜査の過程で帳簿を管理していたパソコンが破損した状況は、「災害その他やむを得ない事情」があったとはみなせないとしたのです。帳簿や請求書の保存がなくても税額控除を適用できる特例は、あくまで災害が起きた時に、本当にやむを得ない場合のみ適用される規定であるという考え方です。
国税不服審判所の判断も税務署の主張を採用したもので、捜査機関による破損は「やむを得ない事情」に該当しないとしました。
【教訓】
捜査機関による破損は、考えようによっては人為的災害で自己の責任によらないものであり、事業者の責任とすることができないような気もするのですが、この事例では厳しめの解釈となりました。刑事事件の被告ということで、不合理に厳しく判断されたということもあるのかもしれません。
「やむを得ない事情」による要件の緩和は一見、納税者にとって優しい制度にも見えますが、その運用はかなり厳格になっています。セルフジャッジで適用しようとしても後でひっくり返されてしまう可能性は高そうです。現状では災害に該当するようなときにだけ適用を考えるのが安全策なのかもしれません。