会社の当期利益は当然のことながら当期に発生した事実を基に計算しなければなりません。しかし、「損失は今期のものだけど、黒字になりそうな来年以降に計上して利益と相殺しよう」といったような衝動に駆られる方は少なくありません。

今回はゴルフ会員権を解約したことによる損失を、解約した事業年度とは別の事業年度に計上したことが問題となった事例(平成29年4月19日裁決)を紹介します。

10年前の損失を今さら計上

自動車販売業を営むA社は、ゴルフ会員権2口分の解約による特別損失360万円を計上して法人税の申告をしました。計上にあたっては「ゴルフ会員権解約の件」とする稟議書も作成し、形式としては解約の事実を証拠として残してありました。しかし、会員権の1口は10年ほど前に解約したものだったのです。

税務調査で調査官はこの損失計上のタイミングを問題視しました。過去に解約していたことを認識していたにもかかわらず稟議書や総勘定元帳では当期に解約したかのように記載しているとして、重加算税の対象となる「事実の仮装」をA社が行ったとしました。

約10年前に解約をしていたというのは紛れもない事実なので、A社はその事実認定に関しては争わず、今期に損失に計上できるという“誤解”をしていたとして仮装であることだけを否定しました。事実関係がはっきりしてしまっている以上、A社としてはこれしかないという反論の仕方です。

誤解ではなく意図的な仮装

単なる間違いや誤解ということになれば重加算税は免れることができるかもしれません。A社も修正申告と過少申告加算税で済むという判断だったのだと思われます。

しかし国税不服審判所は、A社の主張を認めませんでした。当期に損失が発生したかのように装ったと判断し、「総勘定元帳に仮装の記載がある」と断じています。

A社は稟議書の作成をするなどきちんと処理していたことが裏目に出たともいえます。今期の損失から除外されるとともに、重加算税も課されるという、A社にとってはかなり厳しい結果となりました。

【教訓】

A社の事例のように計上のタイミングを巡る論点は実務上多く存在します。経費や損失は計上すべき年が決められているので、計上時期を意図的にずらすことはできません。ただ、意図的ではなくても当局との見解の相違が生じることはあります。私も税務調査で貸倒損失の計上や減価償却資産の有姿除却が税務調査で論点にされ、とても面倒な思いをしたことがあります。事実関係の証明や法令への当てはめで苦労したので、人ごととは思えないような裁決でした。

会計処理をする上で事実関係の証明ができることは非常に大切です。契約書や領収書で裏付けがとれるのであれば基本的には問題ありません。ただ、今回の稟議書や取締役会の議事録といった社内で作成する書類を証拠とすると、何らかの意図をもった調整が可能です。調整していれば内容を精査されることでウソが発覚してしまう可能性は高いです。また、そのような書類を作成すること自体が「仮装」と認定されてしまうこともあるので、「書類だけ作っておけばごまかせるだろう」というような考えは避けるべきです。社内作成の書類だけでは税務署にスムーズに認められるとは限らないので、その事実を客観的に裏付けられる材料を用意しておきましょう。