法人の代替わりでは事業の主体は会社のまま変わりませんが、個人事業では主体が個人から別の個人に変わります。そのため、個人事業主の死亡に伴い事業を引き継ぐ後継者は、税務署に開業届を提出して新規事業者としてスタートを切ることになります。

しかし消費税法には、相続で引き継いだ個人事業を新規事業とはみなさない規定があります。今回は相続で引き継いだ事業が消費税法上で新規事業とみなされるか否かが争われた事例(平成17年6月10日裁決)を紹介します。

個人事業の相続では納税義務も承継

事業の開始から2年間は免税事業者として消費税の課税が免除されますが、2年前の課税売上高が1千万円を超える個人事業を相続で引き継いだ人に限っては、事業を始めたばかりでも消費税が免税とならない規定(消費税法10条)が適用されることがあります。新規事業として各種の届け出をしなければならないにもかかわらず、消費税が課税される事業を引き継いだのなら継続事業として課税される可能性があることになります。

父親が営んでいた人材派遣業を相続で引き継いだAさんは、父親の事業廃止届とともに自分の開業届を税務署に提出。新たに人材派遣業を始めたため消費税の課税事業者にはならないと考え、消費税の申告をしなかったところ、税務署から申告するべきと指摘を受けました。

Aさんは、父親の事業廃止届を税務署に提出していることと、父親の雇用していた従業員(塗装工)の意向を確かめた上で改めてAさんの新規事業に勤務させたことなどから、父親の事業とAさんの事業には継続性がなく、新たに事業を開始したため納税義務はないと反論しました。

雇用条件が父親の事業と同じ

国税不服審判所の判断はAさんの主張を退けるものでした。事業廃止届の提出に関しては、実態として事業を継続しているのだから消費税の免税規定には無関係としています。また従業員の勤務に関しては、父親の死亡に伴って解雇した具体的な事実はないうえ、雇用条件が父親の事業に従事していた時と変更されていないことから、Aさんが引き続き従業員を雇用しているとして、Aさんには消費税の納税義務があると判断しました。取引先との取引条件が父親の時から同じままであったこともAさんには不利な条件となったようです。

【教訓】

裁決を見ると、消費税の課税事業を親から引き継いだ人が消費税の課税を免れるのは難しいことが分かります。

急遽引き継ぐこととなった事業を滞りなく続けるには、取引先や従業員に対して、大抵は「以前と同じ条件でお願いします」というような話になると思われます。無理に条件を変えようとして顧客や従業員が離れてしまっては事業が継続できなくなるので当然です。大幅な変更が難しいからと言って、振込先を変える程度の変更だと、税務署に却下されてしまう可能性が極めて高いように思います。消費税が免除になるというのはとても魅力的な話ではありますが、小手先の調整で免除にできるほど甘い話ではなさそうです。