会社の節税策として生命保険は頻繁に登場します。会社名義で保険を掛けて社長の退職金に充てるパターンや、途中で契約を変更して社長個人がお金を受け取る形にするパターンなど、各保険会社が様々な商品を開発しており、使い方次第では将来への備えと節税が一緒にできるということで、決算対策とは切り離せないものになっています。

今回は、法人負担の保険の満期保険金を受け取った理事長の所得税の計算について争いがあった事例(平成20年6月6日裁決)を紹介します。

法人が全額負担 個人の支払いはゼロ

保険会社から満期保険金を受け取った医療法人の理事長Aさんは、受取保険金から保険料の全額を控除して一時所得の金額を計算し、確定申告をしました。

満期保険金を受け取った人は一時所得として所得税が課税されます。課税対象となる所得金額は「受け取った満期保険金-今までに支払った保険料-50万円」を半分にして算出します。本人が契約して自分で保険料を支払っていたなら計算式に当てはめて申告すれば問題ないのですが、Aさんは保険料を1円も出しておらず、全額を医療法人が支払っていました。医療法人は支払った保険料の半額を保険料として計上し、残りの半額を役員報酬としていました。

これに対して税務署は、Aさんが保険料を負担したわけではないため所得から控除することはできないとして、課税処分を下しました。役員報酬とされていた半額については、Aさん同様に税務署側も控除できるという認識を持っていたのですが、Aさんがその部分についての実地調査に応じなかったため、「役員報酬として適切に処理しているという裏が取れない」ということで全額を否認しています。

役員報酬分の半額は損金化OK

国税不服審判所は、一時所得の計算で控除する金額について「所得者自身が負担した金額に限られる」と解釈しました。まず保険料の半額は役員報酬として経理されており、その分はAさんが給与所得として課税されていたので、本人が負担したものとして控除できると審判所は判断しました。しかし保険料として処理されていた半額分は、Aさん自らが負担したものとは認められないため、控除できないと結論づけました。

国税庁の内部通達ではもともと、所得から控除できる保険料を「支払いを受ける者以外の者が支出した保険料で、支払いを受ける者が自ら負担して支出したもの」(所得税基本通達34―4)と規定しているので、それに沿った裁決となりました。

Aさんは全額を控除しようとしていて、一方の税務署は全額を否認しようとしていたわけですから、結果としては痛み分けです。結局は通達通りの判断で、Aさんが「実地調査には応じない」と抵抗し、税務署が「それなら全額の控除を認めない」と判断したせいで争いが長引いた印象です。

【教訓】

会社が節税目的で加入する保険は、代表者やその親族が受取人になっていることが少なくありません。個人が満期や解約が原因で保険金を受け取れば、所得税課税を避けて通ることはできないので、何らかの対策が必要です。最近は様々なタイプの保険商品が登場し、課税上の取り扱いも複雑になっています。可能であれば保険に加入する際に、加入から満期までのすべての課税関係を保険会社か税理士に示してもらうようにするべきだと思います。全体像を理解してから加入れば後々のもめ事を防止できます。