多額の黒字があって初めて重い負担となる法人税と比べ、消費税は収益にかかわらず課税事業者に課せられるので、多くの会社にとって重荷となっています。そのため、資本金が1千万円未満の法人なら設立から2年間消費税が免税となる制度は、中小企業にとって魅力的なものです。
今回は新規設立法人を使った消費税逃れが論点となった事例(平成29年2月27日裁決)を紹介します。
新会社への売上移動で 消費税を免れる
清掃業を営むA社は、自社の作業員を派遣したことによる対価分の売上を、途中から別会社のB社で計上しました。B社は新たに設立した法人で、A社の代表取締役の一族を役員とした身内の会社でした。
B社には2年間で6億円以上の売上がありましたが、新規設立法人なので消費税の納税義務がありません。そこでB社は法人税の申告はしましたが、消費税の申告はしませんでした。一方で、売上が大きく減少して1千万円を割り込んだA社も、その後に消費税の免税事業者となっています。
これに対し税務署は、B社はごみ処理業務にかかわる従業員が存在しない実態のない法人であると断じました。そして、「消費税を不正に免れるために、A社に対する課税売上をB社のものとして計上した」と判断して、A社の売上として課税すべきとしました。
A社の反論は、「B社は後継者育成という事業目的のために設立した法人」であり、作業員の指導監督という業務実態があるというものでした。さらに、総勘定元帳をはじめとする帳簿書類を備えていて、役員報酬にかかる多額の所得税も期限内に納付していたことも業務実態があることの証拠だとしました。
事業実態が 形式だけではダメ
審判所はB社の位置づけを「消費税の免脱のために便宜上設立された法人」と判断し、A社の主張を退け、税務署の処分を支持しました。
その税逃れスキームは、B社に新設法人の納税義務の免除の特例を適用して消費税の納税義務を免れるとともに、A社は売上高を圧縮することで免税事業者となるというものです。B社が後継者育成という事業目的を掲げていようが、帳簿書類を備えていようが、それらは形式的なものに過ぎないとしました。
なお、B社が計上していた売上はA社の売上であるとして消費税の課税対象としたほか、何ら事業実態がないB社を使って税逃れしたと判断し、不正へのペナルティーとして重加算税の対象ともしています。
【教訓】
私も顧問先の社長から、「新しい会社を設立してそちらに自社の売上を移せば、消費税を免れることができるのではないか」という相談を受けたことがあります。事業の一部を新設した別会社に付けることで消費税の負担を減らすというアイデアは、税の専門家ではなくても割と思いつきやすいもののようです。また、比較的実行しやすいものでもあります。
とはいえ、今回の裁決で分かるように、事業を分けたことについて一定の合理性と実態がないと、否認される可能性があります。この裁決は、安易な消費税逃れのための会社設立に警鐘を鳴らすものにはなったのではないでしょうか。
新設法人が消費税逃れのためのものなのか、それとも商売上必要なものなのか、外部からはなかなか判断できなません。痛くもない腹を探られることのないように、しっかりした理由付けや理論武装をする必要がありそうです。