支出目的がはっきりしない支払いの経費計上は、顧問税理士としては極力避けてもらいたいという本音があります。いくら社長が「これは経費です」と言い張っても、証拠書類がなければ税務署に説明がしにくいためです。とはいえ、証拠書類の有無にかかわらず、税務上の経費に当たるものは計上しなければ損です。
今回は、支払いの内容を具体的に証明する書類を提出しなくても経費として認定された事例(平成22年3月11日裁決)を紹介します。
納税者が残したのは 総勘定元帳と領収書
測量業を営むA社は、調査や測量の業務の一部をBさんに外注し、対価の一部を現金で先払いしました。しかし発注元の事情で業務の中止が決定。A社はその際の「業務中止確約書」に基づき、発注元から業務中止時点までの業務に対する報酬を受け取り、Bさんには報酬の残金を現金で支払いました。
A社は発注元から受け取った金額を「売上」、Bさんへの支払いを「外注費」として法人税の申告をしましたが、税務署はこれを否認しました。その理由は、Bさんに外注費として支払った証拠書類が総勘定元帳と領収書だけで、役務提供の対価であることを具体的に証明するものがなかったことです。また、A社とBさんの言い分に食い違いがあったことも否認の材料となりました。税務署は外注費ではなく、損金にできない「費途不明金」と判断しました。
費途不明金とは、支払い先と金額は明らかである一方、用途が不明な支出です。税法では似た用語に「使途秘匿金」がありますが、こちらは支払い先も用途も分からない支出です。どちらも経費にはできません。さらに使途秘匿金は、「秘匿」という言葉の通り、隠し事をしている支出なので、ペナルティーとして税額がより多くなります。今回の事例では相手先は分かっているので、「外注費」なのか「費途不明金」なのかが論点でした。
A社は「あくまで経費」という主張を変えず、国税不服審判所の判断を受けることにしました。
国税不服審判所の 独自調査で経費化認定
国税不服審判所は関係者にヒアリングをした結果、業務の遂行時期、業務内容の指示、業務場所、金銭や領収書の受け渡しなどに関する事実関係についての認識は関係者間で大きなずれがなく、A社の主張は信用できると判断。外注費は業務の対価として支払われたものであり、業務の遂行上必要なものと認められました。すなわち税務署の判断は否定され、A社は外注費として法人税法上の損金の額に算入できることになりました。
【教訓】
今回の裁決は、業務の対価として妥当な金額を支払っていれば、たとえ支払い内容を具体的に証明する書類がなかったとしても、費途不明金ではなく経費として計上できるモデルケースではあります。しかし、A社は資料が足りなかったためにいったん経費性を否認されています。それを覆すためには国税不服審判所で争わなければならなかったわけです。
やはり業務の範囲と対価を明確にした書類はしっかり作成しておくに越したことはありません。そのひと手間をかけることで、税務署の否認という、より大きな面倒を事前に防ぐことが可能になるはずです。