社長の中には「経費で私物を買うのは我々の特権」などと豪語する人がいますが、私物の購入費を会社の経費にしていることが税務署にバレると追徴課税の対象になります。今回は経費としての形を何とか整えて会社の損金にしようとした社長と、それを否認した税務署が争った事例(平成24年11月1日裁決)を紹介します。

会社名義の車を妻が私物として使用

飲食店を営むA社長は、会社名義で購入した車の減価償却費や保険料代を会社の損金に算入しました。実際に会社が使用する車であれば問題なく損金として認められるのですが、実態はそうではなく、購入当初からAさんの妻が個人的に使用していました。納車場所と保管場所が妻の自宅だったことや、ディーラーからの連絡先が妻だったことも含めて考えると、税務署に妻の私物と判断されるのは仕方のないことでした。

税務署は、車の取得にかかった金銭はいずれもAさんへの役員給与と判断し、Aさんに所得税を課すこととしました。さらに、事実の隠蔽・仮装による経理のもとで支給された役員給与は損金の額に算入しないという法人税法のルールにのっとり、役員給与の損金性も否認しました。個人と会社の双方が追徴を受けたことになります。

これに対しAさんは、妻が車を個人的に使用していて経済的利益を受けていることは認める一方で、車は会社名義のものである以上、取得者は会社であり、会社の資産として処理することは正当だと主張しました。つまり、車の購入費用の全てを役員給与として課税処分の対象にしたい税務署に対し、Aさんは「車はあくまで会社のもので、妻が利用して得をした部分だけを私の役員給与にするべき」と反論したことになります。

経済的利益は 購入費の一部のみ

私の個人的見解ではAさんに分が悪いように思えたのですが、審判所はAさんの主張を一部支持しました。

Aさんの妻が使っていた車を会社のものと審判所が認定した理由は、会社が注文したうえで信販会社を通じて売買代金を支払っていることや、会社が車検証の使用者として記載されていたことでした。また、会社からAさんへの贈与があったわけでもないので、たとえ妻が個人的に利用していたとしても、給与として課税することまではできないとしました。

ただし、会社の資産を妻が無償で使っていたわけですから、その部分の利益は発生しています。その経済的利益に該当する部分は役員給与とされました。

車の購入代金全部を対象としていた税務署の主張は認められませんでした。また、Aさんが事実を隠蔽・仮装したという当局の疑いについても、諸経費はそれぞれ保険料などの勘定科目で帳簿に記載されていることから退けられました。

車全額が役員給与になるのと一部がなるのとでは税金の額が大きく異なります。実質的にAさんの勝ちと言って良い結果となりました。

【教訓】

会社の資産と個人の資産はきっちり線引きをするのが正しいやり方です。境界線があいまいになりそうなら、契約書や名義、支払者などの取り引きの主体を確実に会社にしたうえで、個人的に何らかの便益を受けるのであればその金額は会社に対して支払う形をとる必要がありそうです。会社のものを個人的に使うと、会社と自分との間で取り引きが発生して税負担に関わってくるということをしっかり認識しておきましょう。