家族経営の会社では、代表を務めていた人が退職金を受け取った後も経営に関する意見を求められたり、会長として給料を受けたりといったように、経営への関与を続けることがあります。税務上では社長職を退いた後も経営に深く携わっていると、会社が支払った退職金は損金にできる支出ではなく、役員へのボーナスとして損金不算入となることもあります。
今回は代表を退いた人に支払われた退職金が「会社の経費を減らす目的で計上したもの」と税務署に判断された事例(平成18年11月28日裁決)を紹介します。
役員辞任の際の退職金「みなし役員」なら損金不可
辞任した社長の退職金を損金に算入していたA社の税務処理を、税務署は否認しました。その理由は元社長が退職金を受け取った後も経営に関わっていたと税務署が判断したためで、根拠としては辞任後も従業員の給与をはるかに超える額の給与が支払われていたこと、A社の議事録に元社長について「出席取締役または取締役会長とする」という表記があったこと、元社長が営業所の日誌や各設備の稟議書にサインをしていることなどが挙げられています。
税務上、取締役の肩書きがなく登記上では役員でない人でも、社内の地位や職務からみて他の役員と同様に実質的に経営に従事している人は「みなし役員」となり、役員同様に賞与の損金不算入などが適用されます。A社の事例でも税務署は元社長を「みなし役員」と判断しました。
これに対してA社は、給与の額は退任の際の「役員報酬の額の半額とする」という合意に基づいて支払っているだけであり、従業員の給与と比べて高額だとしても通常の役員への報酬とは異なるとしました。また、議事録については顧問を依頼している会計事務所が形式的に作っただけものと主張。日誌などの回覧については実質的に監督管理を任せているわけではなく、元社長に形式的にチェックしてもらっているものとしました。
「経営に従事」が損金化の境界線
国税不服審判所は、元社長は辞任後に経営に関する重要事項の意思決定に参画する機会を与えられていないとして、税務署に処分を取り消すように求めました。給料の額や書類上の表記についてもA社の主張を全面的に採用しています。
そもそもA社の元社長の辞任は、経営方針の対立に端を発した実質的な更迭であったため、名誉職である会長という立場を与えられているものの経営の第一線からの引退を余儀なくされていました。そのため元社長は「みなし役員」に該当せず、審判所は役員退職金はそのまま損金になると判断しました。
【教訓】
小さい会社では、前の代表者が辞任後もしばらく会社に留まり、仕事をすることがよくあります。代表から会長に代わるときに支払われた退職金が損金にできるかどうかは法人税額を大きく左右するので、税務署との争いが絶えない部分です。
「みなし役員」と判断される「経営に従事している人」とは、法人の主要な業務執行の意思決定に参画している人をいいます。すなわち、本来は給与の支給の有無や金額の多寡はあまり関係ありません。
役員退職金として損金にするには、A社のように退職に至った経緯や給料の根拠をきちんと記録しておくことや、経営に関与していると疑われないように、経営に影響を与える書類に元社長の名前を残さないようにすることが重要です。