同族会社では、社長の親族が自社株を持っているだけではなく、役員や従業員、関係会社の代表になっていることが少なくありません。一族で力を合わせてきちんと事業を行っていれば良いのですが、親族が実際は仕事をしていないのに役員や社員として報酬・給与を受け取り、同族会社はその支払い分を損金にして、納める法人税を減らしていることがあります。
今回は、社長の親族が代表を務める会社への不動産委託管理料の支払いが経費になるかどうかで争われた事例(平成28年5月24日裁決)を紹介します。
契約書上では 親族の会社に委託
不動産貸付業を営むAさんは、母親が代表を務める会社にAさんの会社が支払う委託管理料を必要経費として計上しました。母親に委託していた業務内容は、賃貸物件の日常的な清掃、ゴミ処理、不動産の巡回監視、クレーム処理で、その旨は契約書にきちんと明記していました。
これに対して税務署は母親の会社への委託管理料は所得から差し引けないと判断し、Aさんの申告内容を否認しました。その理由は、Aさんが母親への委託内容と同様の業務を別の業者にも委託していたこと、また各物件はAさんの生活圏内にあって日常的に目視できるため母親に巡回監視業務を委託する必要はなかったことなどです。
Aさんは、母親の会社の業務と、別の管理委託会社の業務は、対象物件や主な業務内容、委託目的が大きく異なっていて、重複していないと主張。また、近隣にある物件の巡回監視業務を第三者に委託するべきか否かは個人が決めるものであり、税務署がその判断をするべきではないとして、当局に処分を取り消すよう求めました。
実質的な管理は 別の業者が実施
国税不服審判所は、税務署同様に委託管理費の必要経費性を否認しました。
Aさんの訴えを退けた理由は、母親の会社は実質的には物件を管理しておらず、別の業者が全面的に管理していたと判断したことにあります。
管理対象の物件は数多く、業務内容も多岐にわたり、とても高齢の母親一人で対応できるものではありませんでした。また母は自分で車を運転して巡回することができず、耳が遠いのでクレーム対応の電話にも出られなかったこともあり、委託契約に基づく管理業務を履行する能力に疑義があるとしました。さらに、事業の内容からも同族会社に管理業務を委託する必要性は極めて乏しいと断じています。
審判所はAさんの主張をことごとく否定しています。実際、審判所でのAさんの主張を見ていくと、かなり無理のあるものだったように思います。
【教訓】
親族に給料や委託料を支払って損金の額を増やすという節税法は簡単な方法のように思えますが、親族への支払いは税務署に厳しくチェックされます。
給料や委託料はあくまで労働の対価なので、実際に仕事をしていないのに支払えば経費性を否認されるのは当然です。なんらかの業務をきちんと行って計上するのであれば正当な経費となりますが、実態は何もしていないのに契約書などの形式を整えただけだと否認されます。
今回紹介した事例では、管理委託料が年額で720万円と比較的高額だったことも税務署に目を付けられるきっかけになったのかもしれません。いずれにしても実態を無視して無理筋で経費計上を押し通そうとしても否認される可能性が高いと言えます。