この連載では、納税者と税務署で見解の相違が生じて「国税不服審判所」の判断をあおぐことになった事例のうち、経営者の参考になる事例をピックアップして紹介します。

今回は個人名義の資産を会社のものとして計上したことが問題となった事例(平成24年12月4日裁決)を紹介します。

一般論として、設立当初の法人は対外的な信頼性が低いため、会社名義での口座開設や不動産の契約ができず、やむを得ず社長個人の通帳を使い、個人名義で契約をすることがよくあります。

名義と帳簿  どちらで判断?

同族会社の代表取締役であるAさんが所有する賃貸用不動産につき、会社は譲渡を受けたものとして賃貸料収入を申告しました。会社での登記は諸事情によりしていなかったそうです。

これに対して税務署は、賃貸借契約の名義人はAさんであり、会社に名義変更できない事情や譲渡の実態もないことなどから、Aさんのものとして申告をやり直す必要があるとしました。

登記は個人名義であり、さらに賃貸収入が入金されている口座も個人名義の通帳だったことから、税法のルールで考えるとAさんにはまったく分がないように見えます。

ただ、Aさんの口座への入金額は会社の帳簿に資産として計上されていて、賃貸収入を会社の収入として法人税の申告をしていたことを考えると、不動産の賃貸は実質的には会社の取り引きだったようにも見えます。

つまり、登記や通帳の名義と、会計帳簿の記載が違う場合、「名義と帳簿のどちらが重要視されるか」という争いとなるわけです。

原則はあくまで  名義人=所有者

国税不服審判所はまず「登記の名義人=所有者」という前提を置きました。そして、この推定を覆す根拠があるかどうかを検討しています。

会社が所有権移転登記の申請をしていないことについて審判所は、会計処理を始めた平成15年9月24日から更正処分が行われた23年12月8日までの8年以上も登記が変わっていないことを「理解しがたい」と表現しています。また、建物の所有権の登記名義人を会社にできない事情はなく、「建物の所有者はAさんである」という推定を覆す根拠はないと判断しました。そして、建物の取得についての会社の会計処理は、「会社の代表者がAさんだからこそできた『単なる帳簿操作』にすぎない」と結論づけました。

賃貸料収入についても、口座の入出金はそれぞれAさんの取り引きと判断できるものであり、これらの普通預金口座はいずれもAさんが所有する普通預金口座であることから、賃貸料収入は会社ではなくAさんのものとしました。

結論としては、「建物の所有者」、「賃貸借契約の賃貸人」、「貸料収入を享受している人」はいずれもAさんであるとして、賃貸料収入はAさんのものと審判所は判断。税務署の勝利となりました。

【教訓】

資産の名義を変えるという作業は面倒であり、またお金がかかるので、つい後回しにしてしまうことも多いのですが、会社と代表者の区別がはっきりしていないような小規模の会社は帳簿上だけの処理だと「単なる帳簿操作にすぎない」とされ、申告を否認されてしまうおそれがあります。どうしても名義を書き換えられない特段の理由があれば別ですが、基本的にはなるべく早いタイミングで名義と実質を合わせる作業をする方が良さそうです。