贈与契約は、一方の当事者が自己の財産を無償で相手方に与える意思表示をし、相手方が受諾することで成立する諾成契約であり、書面作成は必須ではありません。しかし税金の計算に当たっては、契約書がないことが問題の火種となることがあります。今回は、相続開始後に振り込みなどが行われた現金が、生前に成立していた贈与によるものかどうかが争われた事例(平成30年11月5日裁決)を紹介します。

相続開始後に贈与額を振り込み

Aさんは、養父であったBさんが入院した後、Bさん名義の預貯金を解約または出金して現金を持ち帰り、その一部を、新たに契約したAさん名義の貸金庫に移し替えるなどしました。

その後Bさんが亡くなり、Aさんは相続税の申告書を提出。申告書には現金の額として1200万円ほどが記載されていたのですが、この金額はBさん孫らに贈与したという1980万円などが差し引かれたものでした。しかし、この贈与額は相続開始日以前には支払われておらず、後に孫らの預金口座へ振り込まれたものでした。

この申告について税務署は、孫らに対する贈与の契約書がなく、現金が入金されたのも相続後であることから、実際には贈与されたものではなくBさんの相続財産に該当すると判断。相続税の更正処分および過少申告加算税の賦課決定処分を行ったのですが、Aさんは不服だとして国税不服審判所で争うこととしました。

Aさんは、預貯金の解約などは孫らが来た際に現金を直接贈与できるようにBさんの意思により準備がされていたものであるとし、贈与契約書がないことについては親族間であるがゆえに作成しないのが自然であると主張しました。さらに相続開始後に振込が思いのほか早かったために贈与が不可能となっただけであり、その後における贈与はBさんの意思を実現したものと主張しました。

贈与契約は成立していないと判断

税務署は、孫に贈与する予定であったとのAさんの主張に対し、相続前にも贈与する機会はあったにもかかわらず贈与していないことを指摘。贈与が相続開始前または開始後直ちに履行されなかったこと、贈与について孫らに伝えていた様子もうかがえないことなどから、相続開始前において贈与の意思を伝えられていなかったと考えるのが相当であると反論しました。

事実関係を調査した審判所は、受贈者とされる孫らの中に相続開始日には出生していなかった者が含まれていることなど不合理である点を確認したうえで、この贈与はBさんから具体的な指示を受けて行われたものではなく、またBさんの生前に具体的な贈与の金額、時期等を伝えていた事実も認められないと判断。Bさんが孫らに対し贈与の意思表示があったと認められず、贈与契約が成立していたとは認められないとしました。

相続開始後における振り込みはBさんの意思を実現したとするAさんの主張についても、Bさんと孫らの間にそもそも贈与契約が成立していないことから、その請求には理由がないとして退けています。

【教訓】

いくら贈与が諾成契約だとしても、契約書もなく生前にお金が動いている事実もないのであれば、主張を認めてもらうのは厳しいと思います。贈与を主張する場合、しっかり書類を整え、段取りを踏むという作業は必ず行っておきたいところです。