会社には社員に定期健康診断を受けさせる義務があります。一口に定期健診といってもその内容やかかる費用はまちまちで、オーナー社長のなかには「多少費用がかかっても自分の健診はしっかりとしたものにしたい」と考える人もいます。 

今回は役員と従業員の健診の内容が大きく異なっていたため、その費用が損金と認められず、納税者と税務署が争いとなった事例 (平成28年9月20日裁決)を紹介します。 

 

特別扱いすると給与課税

同族会社Aが社員や役員に受けさせていた健診の費用は、社員を対象としたも のは最大1万8522円だったのに対し、役員を対象とした人間ドツクは最大38万8500円でした。A社は社員や役員に代わって支払った費用を「福利厚生費」もしくは「雑費」に計上し、損金として法人税の申告をしました。

また、社員と役員は健診という「経済的利益」を受けていることになり、本来は会社負担分が給与所得として所得税の課税対象とな りますが、福利厚生に関する経済的利益は、その利益が「著しく多額である時」 や「役員だけを対象として提供されている時」を除いて非課税となっています(所得税法の基本通達36-29)。 A社はこの通達を根拠に非課税になると判断し、社員分も役員分も給与所得としませんでした。

しかし税務署は、役員の人間ドックの費用が社員と比べて著しく高額であり、さらにその高額な健診が役員だけを対象にしているため、人間ドックの費用はイレギュラーな役員報酬として損金不算入とするとともに、役員個人にも給与所得として課税することとしました。

 

経営上のリスクは度外視

A社は、生活習慣病の予防を目的とした人間ドックは一般的なものであり、役員報酬には当たらず損金にできると主張しました。費用が高額であることについても、内容は一般的に実施されている人間ドックとおおむね同じものであることに如え、役員が病気に擢患すると一般の従業員が擢患するより会社への影響が大きいという経営上のリスクを考慮すれば、「役員だけが成人病検診を受診することには合理性がある」とし ました。

しかし国税不服審判所は、 A社の人間ドックの費用は役員だけを対象にしたものであるため所得税を非課税にする基本通達は適用されず、給与として課税するべきと判断。A社の支払い分は損金にできず、また役員は給与所得があったものと して課税されることとなりました。 

なお、A社が主張した「役員が病気になった時のリスク」については、「費用が給与になるか否かとは無関係」とばっさり切り捨てています。 

 

教訓 

同族会社は特に役員だけを特別扱いすることがありますが、会社から提供される便宜は原則として給与所得として課税されます。今回の事例では経済的利益を非課税とする基本通達の内容に合致しなかったため課税対象になりました。 

私見では、今回の事例は役員と社員の健診の内容や金額が大きく異なりすぎていたため目立ってしまった側面もあるように思います。 経営上のリスクをベースにした主張がまったく通用していないことを考えると、役員と従業員が受ける経済的利益に多少の格差を設けるにしても、不自然に思われない程度に抑えたり、特別な規定を作っておいたりといった工夫が必要と言えそうです。 (つづく)

 

『裁判事例から読み解く税務署と争いになりやすいのはココ!第二回「社員と役員の健診内容に格差」』、納税通信、第3522号、平成30年5月14 日